ハイドパークのシマリスくん
ナイツブリッジ駅で降りた彼女はハイドパークの池を目指した。ここには野生のリスがいるんだよ、という声が記憶の中でした。小さな黒い影が目の前を横切った。金髪の奇麗な小さな男の子がそっちを指さして何やら言っている。父親らしい、ベビーカーを押した男性が返事をして笑った。男の子と目が合った。照れたような笑顔を浮かべた彼に、彼女はにっこり笑い掛けた。倫敦に来てはじめて笑った、と自分でもおかしくなってもう一度笑った。カメラを持っていたことを思いだしてレンズを向けると、男の子はますます照れたような顔をして少し困ったふうに父親のほうを見た。父親は笑ってみている。シャッターを切ると、ベビーカーの赤ちゃんが、うー、と英語でうなった。木立の方をみている。さっきのリスが、そろそろそろ、と木の上から降りてきた。静かにね、と仕草で合図して、彼女はカメラを構えてシャッターを切った。男の子を見ると、やったね、という顔で答えてくれた。
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シャワーから出てくると、日本語の達者な白人のレポーターが登場したところだった。日本人観光客をつかまえてインタビューするコーナーのようだ。倫敦にまで行ってこんなことやってるとは、いかにもヴァラエティ好きな局らしいや、と思った。 |