ハイドパークのシマリスくん
あのB&Bの夜みたいに眠れぬ夜を僕は過ごしていた。いつしか空も白みはじめて、新聞配達のバイクの音が遠くでしていた。FMからフェアグラウンドアトラクションの懐かしい歌声が聞こえてきた。 あの手紙をそっと鞄にしまったまま、僕らはコベントガーデンあたりのパブにいた。友人は前日のリバプールでのビートルズツアーバスのことを面白おかしく話している。世界各国のビートルズファンがガイドの音頭に合わせてビートルズナンバーを口づさむ風景は、想像するだけでも楽しいものに違いなかった。ちょうどその頃僕はドーヴァーの丘から、海峡を四十分ほどで渡ってくるという巨大なホバークラフトを眺めていたわけだ。そのあと港の近くのピザハウスで、真夜中に書いたおかしな手紙を読み返した。とても読めるものでは無かった。けれど捨てる気にもなれずに鞄にしまった。そうしたままこのパブまで持ってきてしまったという訳だった。そのことを思いだして軽く鞄を抑えたときに、この曲が流れてきたのだ。パーフェクトという言葉を僕は、きっとうまくいく、と解釈した。僕はうまくいくことにした。ちょうど友人が何枚もの絵葉書を取り出して宛名を書きはじめたので、便乗することにしたのだ。アルバム片面まで聴き終えて、出して来てやるよと僕は友人の葉書を預かった。ポストオフィスで、日本の友達に手紙を出したいのです、と中学生英語で言った時、彼女は友達なのか、とどこかで声がしたような気がした。しかし、窓口の黒人女性が親切そうだからといってなにもそこまで詳しく説明する必要もないから友達ということにしておいた。 |