ハイドパークのシマリスくん

 どっちが先につぶれるか、って僕と友人はいつも酒を呑むと決まってそういう状態になった。たとえそこが英国でもそれは変わらなかった。市内の観光地を一日でひとしきり回って、異国の地だということも重なってかなり疲れているからか、隣のベッドの友人は明日はリバプールだと缶ビール全部かっくらって眠ってしまった。勝手に試合放棄は汚ねえなあ、と思いながら僕は寝つかれなかった。この時間ではパブも開いてない。眠れない訳は彼女のことだと分かっていたから、僕は手紙を書くことにした。バイクが窓の外を走り抜ける音に我に返った。手紙を書いてる筈なのに、勝手に物語になっている。まったくほんとに何を書いてるんだろう。僕は料理のセンスもないし役者のセンスもない。だからサラリーマンやってるわけで、だから再び彼女と逢うことなんてたぶんきっと恐らくないに決まってる。しかもこの倫敦でなんて。遠くセントポール大聖堂の見える橋の上で彼女と再会出来たら、きっとやり直せるに違いない。真夜中の手紙は朝読むと恥ずかしいものだが、今は可笑しかった。何をやり直すってんだ。だいたい彼女と僕は別れてなんかいない。隣で大いびきをかいている友人を起こさないように、僕は、くくく、と声を殺して笑った。



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