ハイドパークのシマリスくん

 見覚えのある風景に彼女はサイドバッグから小さなアルバムを取り出した。学生時代に倫敦土産に貰った写真だ。そのなんとかいうロックバンドを彼女は知らなかった。灰色の空に今はもう煙を吐くこともない煙突から思い浮かべた音楽は、彼女にとってそんなに悪いものではなさそうに思えた。けれど自分の好きな音楽とは全然違うのだろうな\とも思ったものだ。結局そのバンドのCDを借りることもないままに今その風景を目の前にしている。彼女は不思議な気持ちで一杯だった。










 ジョニスと双子のラテン系に礼を言って、僕らは駅のほうに歩き出した。
 友人は、明日行くのだというリバプールまでのルートを調べると言って駅のインフォメーションに入って行った。僕は時間潰しにプラットホームのほうへぶらぶらと歩いて行った。欧州の、または英国の駅がみんなそうなのかは知らないが、ビクトリア駅には日本のような改札口は殆ど無く、そのまま列車のところまで行ける。丁度、列車が着いたところだった。『世界の車窓から』で見たことのある黄色い車体から通勤客が吐き出される。倫敦の朝は早い、なんてCMあったかななんて思いながらプラットッホームに入ると、大きな旅行鞄を引き擦った日本人観光客が降りてきた。明らかに卒業旅行と分かるその一団の一人が僕を見つけた。肩のあたりまでの髪が長旅に疲れて少し輝きを失った感じの、けれど結構可愛い女子大生だ。あのすいません日本のかたですか。女子大生は探るような不安気な口調で話し掛けてきた。そうだと僕は答えた。 


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