ハイドパークのシマリスくん
















 まるで機関車トーマスの舞台のようなところを列車は走り抜けてゆく。山あいの道、可愛らしい橋、煉瓦造りに赤い屋根が続く町。彼女にとって見るもの全てが初めてだ。着陸前に飛行機は大きく何度も旋回しながら螺旋状に地上に近付いた。あのとき見えた玩具のような景色のなかに、今自分はいる。そう思っただけで気持ちが高揚してくるのが分かった。
 日本を立った飛行機は十四時間の飛行の後に、ギャトウィック空港に着く。日本との時差は九時間だから、現地時間で夕方五時ごろだろうか。この季節、倫敦の陽は長く、この時間ならまだまだ明るい。まだまだ明るいのと軽い時差ぼけで、僕と友人はナチュラルハイになっていた。ギャトウィックから倫敦市内に入るには幾つかルートがあるが、ちょうど成田空港みたいに国鉄の駅が隣接していることもあって、これが一番便利だ。初めて来た時にはヒースローだったこともあって、おのぼりさん気分でダブルデッカーに乗ったものだが、列車のほうが早いに決っている。昔の千歳空港にあったみたいな陸橋を渡って僕らはホームに向かった。

 ビクトリア駅は終点だからさほど緊張はない。止まったら降りればいいのだ。次第に町並みが近代的になってくるのがわかる。四十分ほど経ったろうか。進行方向右手に奇妙な煙突がみえてきた。僕は友人の注意を促した。ああ、あれだあ、ピンクフロイドのジャケットになったところだよ。友人が答えて眼鏡を掛けた。発電所かな。巨大な煙突が幾つも並ぶ建物は、石で出来ているようにみえた。チェルノブイリの原発を思わせた。僕らは何枚も写真を撮った。


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