'06年全日本吹奏楽コンクール課題曲III
「パルセイション」

 「パルセイション」に関するご質問が掲示板にたくさん寄せられましたので、ここにまとめて背景やら楽曲解説を掲載することにしました。文章で理解したからといって即演奏に反映できるとは限りませんが、一言のヒントで突然曲の本質が見えるようになることもありますので、作曲者の視点でなるべく丁寧に解説してみました。

5 楽曲解説その3(92小節〜最後まで)

 91小節で中間部のパルス音と柔らかいメロディが静かに消えていった後、突然Aが再現します。最初の提示のときにはpから始まりましたが、再現部では最初からmfです。音量だけなく、中間部でくつろいでいた聴き手の気持ちをぎくっとさせるくらい、一気に緊張感を高めてください。全体を一段押し上げるパルスも曲頭では8小節ごどだったのが、再現部では6小節目と12小節目に畳みかけるように出てくる(97,103小節の3〜4拍目)ので、短時間で音楽をぐんぐん高揚させてください。

 113小節からいよいよクライマックスに向かいます。113〜114小節、115〜116小節、117小節、118〜119小節はA(主要部)とB(中間部)の動機が交互に2回ずつ出てきます。動-靜-動-靜またはポジ-ネガ-ポジ-ネガという感じで対比をはっきり出しましょう。

 さて120小節はとても大切な切り替えポイントです。スコアを一見すると前小節のmfから強弱もメロディラインも下がりますから減衰しそうなものですが、実はテンションをここで一気に上げるのがクライマックスを盛り上げる秘訣です。緊張感は音量や音の高低と連動するとは限りません。ここで緊張を高めておくと5小節間のクレッシェンドがたっぷり効くので125小節からの厚みのあるフォルテに繋げやすくなります。

 125小節からはテンション最高をキープ。129小節の2・3・4小節目と130小節の1・2・3拍目は最初にクラッシュ・シンバル、次がサックス&トロンボーン、最後に低音楽器群&パーカッション群のアクセントで拍を刻みますが、中でどうしてもトロンボーンとサックスのアクセントが沈みがちになりますから、とりわけ意識して強めに固めにアクセントが全体を突き抜けて聞こえてくるように吹いてください。

 132〜140小節で曲の頂点に達します。132小節からの主軸は金管で、木管のトリルは装飾です。木管が沈まないようにと思って音量を大きめにしたせいか、木管のトリルが大きすぎる演奏がよくあります。あくまで主軸は金管ですので、132小節のsubito mpで音量やテンションを落としすぎないように、厚みのあるどっしりしたハーモニーをください。クレッシェンドしていくときも「リズムを細かく刻んでいく」と思うと薄っぺらい盛り上がりになってしまうので、パルスと同じく「気を押しだす」という気持を持ち続けてください。

 135小節一拍目裏の8分音符、137小節一拍目裏の三連符、138小節4拍目の三連符のアクセント・テヌートはとても大事です。アクセントを強調すると音が短く跳ねてしまいがちですが、「テヌート」が付くのですから、他の音より「長め」「重め」にください。最初ひとつ、次ふたつ、138小節では三つと「アクセント・テヌート」の音が増えていきます。イン・テンポではありますが、この三カ所で徐々に長くポンピング・ブレーキを書けていく、という気持を持てば、allargandoに自然に繋がっていきます。138小節までせかせかしていて、139小節で急に大げさなallargandoをかけると不自然になってしまうので気を付けましょう。140小節の最高音を鳴らした途端安心して気持が切れてしまう人が多いですが、音を切り終わって次のフェルマータで一旦息を止めるところまで緊張はキープしてください。 それから深くブレスしてはっきり気持と音色を切り替えてからラストのクールダウンにはいります。

 クライマックスの勢いを141小節に持ち越してしまうと音楽が中途半端になってしまいます。ここのフルート1,2の動きは中間部Bでのパルスのようなクールな感じでお願いします。最後一番大変なのはまたしてもホルン。この曲ではホルンがかなり重要な役割を果たします。特に他楽器の助けなしで4声のハーモニーを奏するところがたくさん出てきますので、この曲では全員がトップ、という意識で均等の音量バランスと正確なピッチによる安定した四声のハーモニーを目指してください。特に最終和音の最低音Dフラットのピッチは正確に決めて下さい。

 この作品に対しては本当にたくさん質問が来たので、詳細に解説してみました。とはいえ、言葉でいくら説明しても理難するのはなかなか難しいかもしれません。しつこいですが最後にもう一度強調しておきたいのは、パルスや音型を「刻む」「繰り返す」という意識をけっして持たないことです。「刻む」のでなく「押し進んでいく」、「繰り返す」のでなく「一段ずつ押し上がっていく」というイメージで演奏しましょう。

1 はじめに
2 取り組み方
3 楽曲解説その1
4 楽曲解説その2