'06年全日本吹奏楽コンクール課題曲III
「パルセイション」

 「パルセイション」に関するご質問が掲示板にたくさん寄せられましたので、ここにまとめて背景やら楽曲解説を掲載することにしました。文章で理解したからといって即演奏に反映できるとは限りませんが、一言のヒントで突然曲の本質が見えるようになることもありますので、作曲者の視点でなるべく丁寧に解説してみました。

3 楽曲解説その1(1〜55小節まで)

 やっと解説までたどり着きました。この曲の組み立てを簡単にいってしまうと「うねり」と「パルス」の二極構造です。(バンド・ジャーナル5月号での後藤洋さんの解説は大変重要なポイントを突いて下さっています。)注意していただきたいのは、パルスをスタッカートするとき、空気を「パッパッ」と上に軽く跳ね上げてしまうと、それは当然元の場所に落ちてきますから、パルスが延々同じ場所で足踏みすることになります。ずっと同じ場所で足踏みしている曲なんて面白いはずありませんね。それにスタッカートが軽いとどんどんテンポが走るおそれもあります。パルスは跳ね上げ厳禁!息は緊張感を持ってたえず前に押し出し、一歩ずつ前進していく感覚が不可欠です。ただし前に押し出す気持を持ちながらもテンポはあくまで一定というのが原則です。そうして一歩ずつ確実に前進していくパルスの上を、旋律が緊張感を高めながら延々とうねりつつ盛り上がっていってください。旋律はメロディのユニゾンでなく、大体は厚いハーモニーごとうねっていきます。それでは具体的に見ていきましょう。

 構成をものすごく簡単にくくると、序(1〜4小節)-A(5〜55小節)-B(56〜91小節)-A'(92〜112小節)-C(113〜140小節)-結尾(141〜145小節)となります。 序の4小節は運動を始める前の深呼吸、結尾の5小節は過激な運動のあとのクール・ダウンのような役目で、CはAの再現部A'から導き出されたクライマックスですから、極端にそぎ落とすとABA'の三部形式となります。主要部Aと中間部Bとの対比をいかに鮮やかに描き分けるか、がこの曲の一つのポイントとなります。ではAとBをそれぞれ細かく見てみましょう。

 A(5〜55小節)を細分化してみるとa(5〜16小節)-a'(17〜24小節)-a''(25〜32小節)-b-(33〜40小節)ーc(41〜55小節)となります。つまりaのフシが三回変形しつつ緊張を高めながら現れたのち、新しいフシに変化しうねりつつ前半の頂点を迎え、中間部に向かって減衰していきます。地味なメロディを三回繰り返すなんて退屈、と思ったあなた!修行が足りません。三回同じ音型が出てくる場合「繰り返す」と思っては絶対いけません。三回同じに繰り返したら退屈に決まっているでしょう。意図的にテンションを引き上げることで、聴き手の関心をこちら側に引き込むのです。

 さきほど「うねり」と「パルス」の二極構造といいましたが、Aの部分では、パルスにも二種類あります。ひとつは前進するパルス、もう一つは押し上げるパルスです。押し上げるパルスにも二種類あって(ややこしい!)、一時的に上向きの圧力をかけるパルスと、全体のステージごと一段押し上げるパワフルなパルスです。

 たとえば6・8・10・12・14小節3〜4拍のトロンボーンによるD,Eの二度音程は一時的な圧力で、16小節3,4拍のトロンボーン、ユーフォ、バスなどによる半音上行形はステージごと一段押し上げるパワフルなパルスです。押し上げ力の強いパルスは新しい展開の前に必ず出てきて緊張感をぐっと引き上げます。その役目の中心となるのがトロンボーン。この曲ではトロンボーンが音楽の成否を左右するといっても過言ではありません。中・高校の吹奏楽におけるトロンボーンは、音量、テンションともに控えめな傾向がありますが、この曲では一時的に押し上げるパルスでも「警告音」のような緊張感のある音がほしい。特に2,3番トロンボーンさん、優しすぎます。この曲ではトップに遠慮はいりません。完全平等です。三和音を奏するときはトップと同じ音量バランス、同じ緊張感で演奏してください。中低音の厚みが不可欠なんです。

 さてaの音型を三回ぐいぐい引き上げたのち33小節から新しいメロディが出てきます。ここは役割分担が変化するのでチェックが必要です。メロディ部は木管が受け持ちますが、TpとTrbnもパルスを刻んでいるようで実はほとんどメロディ(ハーモニー付)を受け持っています。試しに33〜40小節間をTpとTrbnだけで演奏してみましょう。合体したときひとつのメロディとして聞こえてくるはずです。四分休符が挟まってもいちいち気持を切らず、メロディの流れを感じながら奏してください。それから34,36,38小節の3〜4拍はTpがパルス担当、Trbnはメロディ担当です。トロンボーンはぶっきら棒になりやすいのでメロディであることを自覚して吹きましょう。

 41小節から50小節まではA部分のクライマックスです。木管はタンギングが頻繁ですがフレーズは長くつないでください。タンギングごとに気持が切れてしまったり、音域が下がるのにつられて緊張がゆるんでしまったりすることがないように気をつけて。

 47、48、49小節と駄目押しの三連続盛り上げで50小節の頂点に達し、二小節の頂点キープのあと4小節間でpに減衰し中間部に入ります。中間部のpを際立たせるため50,51小節の頂点はffをたっぷりキープしましょう。そのときトロンボーンとサックスの2分音符、トランペットの三連符のアクセントは音量たっぷりに、固めに鋭く奏して下さい。もわもわ吹くと、他楽器が全部ffキープなのでアクセントもリズムも抜け出てこず、ぼんやりした印象になってしまいます。

1 はじめに
2 取り組み方
4 楽曲解説その2
5 楽曲解説その3