'06年全日本吹奏楽コンクール課題曲III
「パルセイション」

 「パルセイション」に関するご質問が掲示板にたくさん寄せられましたので、ここにまとめて背景やら楽曲解説を掲載することにしました。文章で理解したからといって即演奏に反映できるとは限りませんが、一言のヒントで突然曲の本質が見えるようになることもありますので、作曲者の視点でなるべく丁寧に解説してみました。

1 はじめに

 '06年度全日本吹奏楽コンクール課題曲です(作曲・CD公表は'05年。全日本吹奏楽連盟 委嘱)。'93年に岩手県国民文化祭の委嘱で合唱と吹奏楽のための『 春と修羅』を書いて以来12年ぶりの吹奏楽ということになります。

 '80年代は合唱中心、'90年代後半から歌曲作品も多く手がけ、'00年代に入ってオペラと、長く声楽作品を中心に作曲してきた私ですが、実は器楽系で、初出版作品はなんと'82年度の吹奏楽コンクール課題曲「序奏とアレグロ」でした。大学院2年の頃です。

 当時私は重度のオーケストラ病(作曲科学生に多い病気)で、とにかくオーケストラ作品を書くことにしか興味がなく、「序奏とアレグロ」を発表する前、既に管弦楽曲を三作も初演していました。その当時オーケストレーションの指導をして下さっていた浦田健次郎先生が吹奏楽にも造詣が深かったため、なんとなく私も興味を持って課題曲コンクールに応募したのです。募集要項をあまり見ずに作曲したので、アマチュア向きの音程の配慮は全然してなくて、導入部トランペットのソロは音程飛びまくり、クラリネットの最高音域はト音記号の上第5間のAくらいまであって、おまけに無調でした。

 今聴くとなかなかユニークな曲という程度ですが、当時はかなり斬新で「前衛」扱いされました。今でいう課題曲Vのようなポジションでしたが、全国大会を聴いたら、中学校もほとんど「序奏とアレグロ」を課題曲に選んでいて、それがまた異常に上手いのでびっくりした記憶があります。

 21世紀に入って私の内で器楽への回帰現象が進みつつある中、吹奏楽連盟から委嘱をいただいたのは実にグッドタイミングでした。それにしても吹連、よく私のことを覚えていて下さったですねえ!声楽系の美しいメロディを期待した皆さんには申し訳なかったですが、私、器楽だと無調のほうが断然書きやすく、今回の課題曲も無調(というより多調的。いい響きだと思うんですが・・)な上、ブラスに多い発散開放型でなくじ〜わじわ緊張を盛り上げるタイプの曲なので、玄人筋には大変評判がいい一方、中学生の皆さんには「とっつきにくい」「疲れる」「暗い」「こわい」などというご感想が多いようです。大丈夫、長い期間取り組むには最初とっつきにくいくらいのほうがいいんです。そのうち慣れます。

2 取り組み方
3 楽曲解説その1
4 楽曲解説その2
5 楽曲解説その3