「こんなところで死ねるか。・・・約束しただろう?」
「―――えぇ。」
「俺と、と、たくさんの子供。・・・幸せな生活。」
イザークの声に、弱々しくもは笑った。
イザークもほほ笑みかえす。
「に出会えて、よかった。俺は、この船に乗れたことに感謝する。」
〔 海に眠る船に、あなたに。 〜PHASE.24〜 〕
イザークがアークエンジェルに乗った理由。
それはそもそも、とアスランの結婚式に出席するため。
それさえなければ、こんな所で命を危険にさらすこともなかった。
けれどイザークがそれ以上に大切だったのは『に出会えたこと』。
それ以外、他になかった。
「がんばれ、。俺たちの未来のために、こんなところで死ぬな。」
イザークの言葉に、は何度もうなずいた。
これはおそらく罰なのだ。
自分のせいで命を奪われたアスラン。
自分が捨てた家族。
それを代償として幸せになろうとする自分たちへ。
は力なく目を閉じた。
生きること。
イザークとの未来を生きること。
それだけがの心の支えになっていた。
「あきらめるな。」
イザークはなおも力強く、に言葉をかけ続けた。
***
どれくらいの時間が過ぎただろう。
もうそんなことを考えることができる状態ではなかったが、はゆっくり目を開けた。
首だけを動かして波間を見る。
声が聞こえた気がした。
揺れる意識の中で、は懸命にその声を聞き取ろうとした。
確かに、声だった。
もうろうとした意識では、なんと言っているのかはわからない。
けれど、助けがきたことは確かだ。
は身体のしびれも忘れて、上半身を起こした。
イザークと握り合っていた手を、揺さぶる。
「助けが・・きたわ。イザーク。・・・イザーク。」
イザークは目を閉じていた。
自身でも耳が麻痺していて聞き取れないため、はイザークもそうなのだろうと思った。
はイザークの手を、さっきよりも激しく揺さぶった。
「イザーク・・・!目を開けて。助けがきたの・・・!」
けれどもイザークは目を開けない。
こんなにもきつく手は握られているのに、イザークからの答えがない。
「イザーク?・・イザーク!イザー・・ク!」
は懸命に呼びかけた。
イザークは目を閉じたまま答えない。
「ボートがきたの。だから・・・イザーク・・・!」
は握り合う手に、もうひとつの自分の手を添えた。
両手で包みこんでも、イザークの目は開かない。
「どうして・・・?ねぇ、イザーク!」
はその意味を悟って泣き崩れた。
イザークはもう目を開けない。
あのアイスブルーの瞳は、永遠に失われた。
凛とした声で、の名を呼ぶこともない。
優しくにほほ笑むこともない。
「イザー・・・ク・・・。」
あとはもう、声にすらならなかった。
消えてしまった。
失われてしまった。
イザークの死によって、と二人で生きる未来が。
苦しくて、この胸の苦しさで、死んでしまえると思った。
ボートはの生存に気づかずに、遠ざかる。
はそれを、失意のままで見送った。
このままここで、イザークと・・・。
彼のいない未来になんて、意味はない。
はそうして目を閉じた。
冷たいイザークの手に、そっと自分の頬を寄せた。
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