の思考のほうが、ボートが海面につくよりも早かった。
はアークエンジェルに向かって、救命ボートから飛び移った。

!」
?!馬鹿な・・・!」

イザークもアスランもそのの行為を目撃し、信じることができなかった。
今のの行為は、生きる道をひとつ放棄したことと同じだ。

イザークはすぐに、が飛び移ったと思われる階へ走り出す。
アスランはいまだ信じられない思いで、そのイザークの後ろ姿を見送った。

アスランは自分の掌を見た。
ついさっきまで、この掌での肩を掴んでいた。
安全な、生き抜くためのボートに乗せたはずだった。
それなのにはそれすら放棄して、イザークの元へ戻った。

ちっとも笑えることではないのに、アスランには笑いがこみあげてきた。
「自分の命よりも・・・イザークが好きか・・・?」
アスランは初めて、胸の苦しみを知った。
どうしてそんな痛みに襲われるのか、アスランにはわからなかったけれども。










〔 海に眠る船に、あなたに。 〜PHASE.20〜 〕










!!」
右に左に確認しながら、イザークは必死の思いでを探した。
混乱して人の行き交う船内。
一人を探すことは容易でなかった。

ようやくとイザークが出会えたとき、の顔は涙に濡れていた。
「イザーク!」
?!」
はイザークの姿を見つけると、両手を広げて身体全部でイザークに抱きついた。

衝動に身体を支えきれず、イザークは床に倒れこむ。
けれどの身体を離すことはなかった。


「なぜボートを降りたんだ!なぜ戻ってきた?!」
の行為を責めるものの、イザークはの身体を強く抱きしめた。

「一緒に・・・いる!」
は懇親の想いで、イザークの身体にしがみついた。
「置いて行くなんて・・・できなかったの!」

「馬鹿なことを!」
「イザークは私に言ってくれたわ!飛びこむなら一緒にって。だから私も・・・!」

イザークはようやく肩の力を抜いて、のおでこに口づけた。
「なら俺は、あらためて誓う。を独りにはしない。」
「〜〜〜っ!・・イザーク・・・っ!」


「いつまでそうしているつもりだ。」
抱き合っていた二人は、突然あげられた鋭利な声に驚いて顔を向けた。
視線の先には、拳銃を構えたアスランが立っていた。

「アスラン・・・。」
「言っただろう。は俺の妻だ!」
罵声と共に、イザークの左手近くの床に銃が射ちこまれた。
イザークはとっさにを守るように抱きしめた。
その行為は、余計にアスランの心を憎しみで締めつけた。

「アスラン!もうやめて・・・!」
がイザークの腕から抜け出して、アスランの方へ顔を向けた。

「ごめんなさい・・・!ごめんなさい、アスラン。」
許しを乞うようにして両手を胸の前で組み、きつく目をつむる
自分をいさめようとするその行為ですらイザークのためだと思うと、アスランには到底許せるものではなかった。

「どうしてもと・・・言うなら・・・!」
アスランの目に、に対する言いようのない憎しみが宿る。
その銃口がに向けられたとき、イザークが後ろからの手を引いた。

「今は逃げるぞ!アスランは正気じゃない!」
手を引かれるままに、はイザークと混乱続く船の中へ駆けこんだ。



アークエンジェルの船内は、すっかり様子を変えていた。
船首から海に徐々に飲みこまれ、すでに傾いている。
船の廊下はもはや、坂道のようになっていた。

「本当に・・・沈むのね・・・。」
アスランから逃げながら、は思わずぽつりと言葉を漏らした。
船内の様子で、初めて沈没することが現実的に思えた。
それまでは心の奥底で、大丈夫だという甘えがあったのだと思った。

船首の方へ逃げていた二人の足元にも海水が流れ、が水に足をとられた。
!」
イザークが振り向いたのと、の隣で水が銃弾ではねたのとが同時だった。





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