「イザーク!」
「か?!」
イザークの姿を収容室で見つけたは、足元を海水に沈めながらも駆け寄った。
「遅くなってごめんなさい!私・・・!」
は夢中でイザークの首筋に抱きついて、イザークはの背を優しく撫でた。
「泣くな。俺はがここにいるだけでいい。」
惨めな仕打ちを受けたのにもかかわらず、イザークはそう言った。
身体を少し離して、とイザークは見つめ合う。
イザークのアイスブルーの瞳が、優しくの姿を映していた。
〔 海に眠る船に、あなたに。 〜PHASE.19〜 〕
穏やかに見つめ合う時間すら、二人には許されていなかった。
手をとり合ってアークエンジェルの甲板へあがると、わずかな救命ボートが見えた。
「女性と子供は?!まだいるなら早く!」
船員が大きな声を張りあげている。
イザークはその声を聞きつけて、の手をぐい、と引いた。
「まだここにいる!」
大声での存在を船員に伝えると、人波をかき分けボートの手前へ向かう。
はなすがまま、イザークの行為を受け入れていた。
ここで別れることになるなど、は考えてもいなかったのだ。
「さあ、早く。」
ボートの上から船員に手を差し出されたとき、やっとは気づく。
イザークが、ボートに乗れないことに。
「イザーク?!」
手をとることを躊躇して、イザークを振り向く。
「俺はまだ乗れない。今はだけでも行ってくれ。」
「でも!・・・ボートの数は・・・!」
の目は、トダカから聞いている事実をイザークへ告げていた。
ボートの数が足りない。
この船に乗る半数以上が、ボートに乗れない。
それはイザークも一緒に聞いていた事実だ。
ところがイザークはに優しくほほ笑んだ。
「安心しろ。俺も必ずボートに乗る。必ずのところへ行く。約束する。」
それは、他の人が見れば安心させるのに充分な言葉と表情だっただろう。
けれどもの心は逆に不安だった。
ここで別れてしまったら、もう二度とイザークに会えないような気がしてならなかった。
「乗らないんですか?!」
はさらに急かされるように手を差し伸べられた。
それでもまだ、は手をとってボートに乗ることができないでいた。
「何をしているんだ、君は。早く乗るんだ。」
肩をぐっとつかまれて前に押し出されたは、イザークと違う声に驚いて振り向いた。
「アスラン?!」
驚いて声を大きくするだったが、アスランはそれを気にするそぶりも見せなかった。
「ボートの数は、が一番気にしていたことじゃないか。俺たちならすぐに乗れる。早く行くんだ。」
「でも・・・。」
はアスランを見て、イザークを見た。
するとそれに気づいたアスランが言った。
「イザークの席も、俺の席もある。俺たちを誰だと思ってるんだ。」
別れたときの、の無礼な振る舞いなど忘れているかのようにアスランが言う。
アスランは船員に目配せし、気づいた船員がの手を引いた。
そのままボートに乗りこんでしまったは、イザークを振り返った。
「イザーク!」
イザークは突然のアスランの登場にも動じず、相変わらず優しげな目でを見ていた。
「アスランの言うとおりだ。俺たちは、大丈夫だ。」
その言葉が合図になって、ボートが降ろされた。
降ろされていくボートに乗りながら、は二等三等の乗船客たちが必死に船から手を伸ばす様を見た。
見上げれば、船の上からイザークが、愛しげにを見ている。
そのイザークの背後の闇に、場違いなように打ちあがる花火。
その儚さに、人の命が重なってみえた。
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