「知っているのね。それなら話は早いわ。早くボートへ・・・・」
「碧洋のハートが盗まれた。それから君もだ。」

の言わんとする言葉をさえぎってアスランが告げた。
まるで罪状を告げるように。










〔 海に眠る船に、あなたに。 〜PHASE.17〜 〕










「え?」
おかしな話の展開にが聞き返す。

「幸い、君自身は戻った。・・・が、もう戻らないものがありそうだな。」
つながれたとイザークの手から目を離さずに、アスランが言葉を吐き捨てた。
「碧洋のハートか。・・・忘れていた。これだな?」

イザークが自分のポケットから宝石を取り出した。
イザークが描いた絵だけは金庫に閉じこめたのに、宝石の存在をすっかり忘れていた。
にしてもイザークにしても、目の前にある幸せのぬくもりのほうが、よっぽど大切だったのだ。


「あははっ!正直だね、イザーク。」
突然あがった笑い声。
アスランとは違うその笑い声に、はびくりと身体を震わせた。
アスランの陰にはキラがいて、場違いな笑い声をあげていた。

「盗んだって認めるの?ずいぶんといさぎよいじゃない?」
本当に愉快そうに笑うキラに、は嫌悪感がぬぐえない。

「盗んだつもりはない。返すのを忘れていただけだ。」
堂々と告げるイザークに、キラはもう一度声をあげて笑う。
「さすが!ジュールの血は言うことが違うね。」

イザークはキラにはかまわず、アスランの手に碧洋のハートを落とした。
「心配をかけた。これは返す。」
「・・・・『これは』?」

イザークの言葉の端に引っかかるものを感じて、アスランが聞き返す。
イザークは一度だけを見ると、またすぐにアスランと向かい合う。

は、返せない。」
そして今度こそ、はっきりと告げた。

「返せない?」
冷ややかな目のままで、アスランが言葉を繰り返す。
イザークはひるむこともなく、堂々としていた。

「ああ。返すつもりはない。」
迷わないイザークの態度に、確かに一瞬アスランは顔をゆがめた。
歪めたはずなのに、アスランの口からは笑い声が漏れた。

「なにがおかしい!」
くっくっと笑うアスランに、イザークが食ってかかる。
イザークの怒鳴り声に、アスランもその笑いを止めた。
その顔からうかがえたのは、イザークに対する憎悪。

「笑わせるな、イザーク。」
一段と低い声で告げると、とつながれたイザークの腕をねじり上げた。

「・・・くぅっ!」
イザークの顔が痛みに歪む。
「イザーク!アスランやめて!」
が悲鳴をあげてアスランの手にすがる。
キラだけが、とても楽しそうにその様子を眺めていた。


「キミも、勘違いするんじゃない。」
イザークを追求する手を休めずに、アスランがに言った。

「俺たちに自由な恋愛はない。。キミが俺と結婚することにかわりはない。」
アスランがぴしゃりと告げ、はびくっとアスランをつかんでいた手を離した。
「それでも・・・、私・・・。」



「アスラン様!」
反論しようとが言葉を捜したとき、別の声がの声をかき消した。

「やっときた。遅いよ。」
答えたのはアスランのほうではなく、キラだった。
「申し訳ございません!キラ様。」
機嫌を損ねてしまったと必死にキラに頭を下げる警官。
アスランがイザークをその警官に突き出した。

「窃盗未遂罪と、俺の妻に対するわいせつ罪だ。早く連れて行け。」
「はっ!いや、しかし・・・。」
「連れて行かれるような覚えはない。」

ザラ家とジュール家の板ばさみになり、警官は戸惑いの声をあげる。
「連れて行くんだ!」
アスランの罵声が響き、警官は言われるがままにイザークに手錠をかけた。

「やめて!こんなことしている場合ではないでしょう?!」
が怒りをにじませてアスランに抗議したが、彼の言葉はどこまでも冷たかった。

「俺への侮辱罪を加えないだけ優しいと思ってもらいたいな。」
そのままアスランは、イザークの後を追わせないようにの腕をつかんだ。


「イザーク!」
廊下の端に消えようとするイザークにむかって、は声をあげた。
イザークは少しだけ振り向くと「大丈夫だ」と口だけを動かした。





   back / next