火照った身体を冷やすため、二人は甲板にあがった。
イザークの手がの腰に回り、は身体に触れるイザークの手を握った。
これ以上なく密着した二人は、笑い合いながら手すりにもたれかかった。
ふと沈黙が押し寄せて、二人は無言で見つめ合う。
その瞬間。
〔 海に眠る船に、あなたに。 〜PHASE.16〜 〕
ガウン、と船が揺れた。
何か鋭利なもので、金属が削られる音がする。
「なんだ?」
イザークが眉間にしわを寄せた。
ゴンゴンゴン、と甲板の上に鈍い音が続いて、イザークとにもその物が目に飛びこんできた。
「氷山・・・!」
「衝突したのか?!」
先ほどまでの甘い時間が、一瞬で凍りつく。
衝突した氷山は、海面に出ている部分だけでも巨大だった。
『氷山の一角』という言葉があるほど、氷山は隠れて見えない部分のほうが大きい。
「船底は、いったいどれほどの被害を受けている・・・?」
今イザークとがいる甲板に、揺れも異常も感じない。
だが、確実に異変が起きていることを二人は悟った。
「トダカさん・・・。トダカさんを探しましょう。」
「そうだな。・・・いくぞ。」
イザークとの、つながれた手。
それだけが唯一、暖かかった。
船尾から甲板を前に進み、船長室に近づいたとき、二人は目的の人物を見つけた。
トダカは両手にたくさんの資料を抱え、明らかに顔色を変えていた。
足早に去っていくトダカの袖を、が捕まえた。
「トダカさん!」
を振り返るトダカの顔には、明らかに余裕がなかった。
「なにがあったの?お願い、教えて。」
トダカはの顔を見ると、あたりを2,3回確認して声をひそめた。
「あなたに・・・隠し事はできませんね。」
そう言ってトダカは、あきらめに似た笑いを浮かべる。
「氷山はご覧になりましたか?」
「あぁ、見た。」
答えるイザークの隣で、もこくりとうなずいた。
「衝突により船底が激しく損傷しました。・・・沈むのは、時間の問題です。」
コクっとののどが鳴る。
驚きのあまり言葉を発せず、目を見開く。
トダカは自嘲めいた笑いを崩さず、言った。
「鋼鉄でできた船は沈む。ただそれだけのことです。」
皮肉めいたその言葉に、はトダカがどれほどの業を背負ってしまったのかを知った。
「トダカさん・・・。」
顔を歪めたに、トダカは一瞬だけ笑って見た。
しかしすぐに顔を険しくした。
「さあ、急いで。救命ボートに乗るんです。・・・ボートの数は、知っていますね?」
「―――えぇ。」
震える口で、はようやく言葉を搾り出す。
乗船客数に比べて、明らかに少ない救命ボート。
この船に乗る半数が、救いの手を差し伸べられずに死ぬ。
はイザークの顔を見た。
「早く・・・知らせなくちゃ。」
「あぁ。」
家族から、家から、逃げる。
そればかり思っていたはずだった。
が、この危機的状況の中で考えたのは、家族へ危険信号を告げることだった。
***
の部屋の前で、アスランは不機嫌そうに腕を組み立っていた。
そこへ、イザークとが連れ立って戻ってくる。
つながれた二人の手を見て、アスランはいっそう顔をしかめた。
「説明してもらおうか。」
冷ややかな目で二人を見下ろし、アスランが言った。
「大変な報告があるの。アスラン、みんなを集めて。」
切羽詰った顔でがアスランに迫る。
「あぁ。そうみたいだな。」
アスランは冷ややかな目を崩さなかった。
それは『を理解したい』と言った前の、あの頃のアスランの目だった。
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