「会ってイキナリですかっ?!」
ありえない、とばかりにシンが大声をあげた。
その声に、全員が一瞬で現代に戻ってきた錯覚におちいる。

の話に引き込まれて、まるでアークエンジェルに乗っていた気分だったのだ。










〔 海に眠る船に、あなたに。 〜PHASE.05〜 〕










「アリなんじゃないのー?なぁ?」
ムウが誰にともなく問いかけ、ドッと笑いが起こった。
さっきより気のせいか、傍聴者が増えている。

「恥ずかしいことだけど、理性では抑え切れなかったわ。それほどの衝撃だった。」
は寄り添ってくれているマリューの髪をなでた。

「とても、情熱的な恋だった。」



初めてなのに長い長いキスのあと、二人は無言で見つめ合った。
「最短記録で最長記録だわ。」
が少しおどけて言ってみせた。

「俺もだ。」
イザークが同じように笑いながら言った。

その後二人は手を握り合ったままで、身近なベンチへ腰掛けた。
夜の風がの身体をなでて、は少し身体を震わせた。

外に出るためのドレスではなく、食事の席のためのドレスに防寒性などほどこされていない。
それに気づいたイザークが、自分の上着をに羽織らせた。

「ありがとう。」
その優しさに、は素直に礼を言った。
こんなに居心地の良い男性のとなりなど、には初めての体験だった。


「あの・・・。私、実は・・・。」
言いかけては、それ以上をどう伝えていいものか悩んでしまった。

婚約者がいる身でありながら、イザークとキスをしてしまったことが、いまさらながらに後ろめたい。
しかも相手はあのジュール家次期当主だ。
イザークは、どういう気持ちで自分にキスをしたのだろう・・・。
一瞬でいろいろな考えが頭をよぎり、は何も言えなくなってしまった。

。・・・・は―――・・・。」
イザークが口を開きかけたとき、人のざわめく声が聞こえた。
それはだんだんと近づいているようだった。

「なんだ?」
人の気配に、二人の手が自然と離れた。
それをさびしいと思う間もなく、の耳によく知る声が聞こえてきた。

!そこにいるのか?」
「アスラン・・・・?」
驚いたことに声の主の名を呼んだのは、イザークの方だった。

アスランは警官を数人引き連れて、船尾へやってきた。
「こんなところで、いったい何をしていたんだ。心配するじゃないか。」

アスランの手が、の耳元へ触れた。
「こんなに凍えて。風邪でもひいたらどうする気だ。」
「あの・・・。ごめんなさい。」

所有者の特権といわんばかりにアスランはの頬をなで、手を握り締める。
そこで違和感を覚えた。

あれほどの頬は冷えていたのに、握った手はひとつも凍えていなかった。
まるでずっと、何かのぬくもりに触れていたかのように―――。

「そうか。どこかで聞いた名だと・・・。アスランの・・・。」
イザークの小さな声が、に聞こえた。
二人が知った仲だったという事実に、の背筋が凍えた。


「やぁ、イザークじゃないか。」
アスランはまるで今初めて気づいたというように、イザークへ声をかけた。
「君がと一緒だったのか。俺の婚約者が失礼なことをしなかったかな?」

優しい声をしながら、やはりアスランの目は笑っていなかった。
そしてに接する以上に、鋭い口調だった。

「まさか。俺の婚約者だと知っていて手を出した。・・なんてことはないよな?」
イザークが何も言い返さないことをいいことに、アスランが探るように言った。
侮辱的な言葉を受けながらも、イザークは何も言い返さなかった。

アスランの言葉よりも、衝撃的すぎたのだ。
に定められた相手がいた、ということが。



さっきまでの二人の時間が、まるで夢のように思えた。
それほどに儚い、夢のようだったと。
けれど確かに、何かがはじまることをイザークは感じていた。
一瞬で心を奪われた、という女性に。




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【あとがき】
 イザークに対して容赦ないアスラン。
 黒アスが書きたいー!!と思ったのは、ファンディスクがきっかけです。
 しかもイザークキャラソン。
 ロッカールームのイザークとアスランの対のカットで彼は、どす黒い笑みにしか見えません。