ザフトへ入る、と伝えた私たちを、父2人はうなずき合うことで認めた。
ただし、軍に入るからにはがっかりさせるな、が、パトリックおじさまの言い分だったけど。
国防委員長であるおじさまにとって、ザフトは大切な駒だから。
「あれー? アスランどこ行くの?」
「ラクスに報告してくる。軍に入れば、帰省もままならないからな。」
ラクス・クラインは、パトリックおじさまが決めたアスランの婚約者。
透きとおるような歌声の彼女は、プラントのアイドルだ。
「アスラン!・・・お願い、ね?」
手渡したCDと私をいぶかしげに見るアスラン。
「何のマネだ?」
「やだーん、アスラン。私ラクス様のファンだもの。サインもらってきてよ。」
「俺がか?!」
「だってー、アスランしか会えないじゃん。」
「断る。自分でもらえ。」
どうやってもらえばいいのよ?
アスランのけちーーーー。
私の言葉を無視して、アスランはさっさと出かけてしまった。
2人の間に“あんなこと”があったのに、私とアスランは何も変わらなかった。
あれっきり、あれだけのこと、とお互いに思っていたからかもしれない。
同情でしかなかったあの行為には、何の意味もない。
それより、何もかもをアスランに話したおかげで、私の気持ちはものすごく楽になっていた。
ただ少し、ラクス様に対しては申し訳なく思っていた。
自分の婚約者が他の人と・・・って、絶対良い気はしない。
そこに恋やら愛やらないだけマシかもしれないけど、身体だけってのも別の意味で嫌だろうし。
驚いたことに、アスランが出かけて30分で帰ってきた。
・・・ラクス・クラインを連れて。
今までTVでしか見たことのなかったピンクのお姫様が、私の前でふわりと笑っている。
「初めまして。ラクス・クラインですわ。」
「はじっ・・・めまして。・です。」
うわーーーーっ
うわーーーーっ! 本物だよ!
「様のお父さまとは、何度かお会いしたことがありますの。」
父は表向きは国防委員長補佐官。
なので、ラクス様のお父さま、シーゲル・クライン様をお訪ねになったことはあるんだろう。
でも、どうしてここに、ラクス様が?
何と会話を続けていいのかわからなくて、私はアスランを見た。
「サイン、欲しいんだろ?」
いたずらっぽく言われて赤面する。
本人前にして言えるわけない!
つまり、こういうことをアスランにお願いしてたのか、私は。
「あのぅ、ラクス様?」
「まぁ! ラクスとお呼びくださいな、様。」
「いいえ、あの! じゃあ、私こそと呼んでください。」
「まぁ! よろしいんですの?! 嬉しいですわ!」
あぁ・・・・ますます言えない。
サインくだしゃい・・・・。
そんな私を見て、アスランがくくっと笑っていた。
失礼な!
「アスランとは、どちらがお強いのですか?」
テラスにて3人で雑談しながら和やかにしていたところに、ピンクのお姫様の発言にはびっくりした。
もしかして、知ってるんじゃないか、私のこと。
と思ってアスランをちらり、と見たけれど、アスランはラクスに気づかれないように首を振っていた。
ふむ。気のせいか。
「お2人とも、軍にお入りになるとお伺いしましたので。」
ニコニコと言うラクスに他意はなさそうだ。
「でもラクス、は女性ですから。」
「あらぁ? その発言は失礼ですわ、アスラン。特に軍人となられるのでしたら、性別は関係ありませんでしょ?」
「そーだぞ、アスラン。・・・何なら、勝負する?」
私の言葉にギクリとするアスラン。
かたや一年前から軍人並みの訓練をしている私。
かたやこれから訓練開始のアスラン。
勝負は目に見えている。
「すてき! 勝者にはわたくし、何かさしあげましてよ!」
婚約者にこう言われては、アスランも引けない。
「よし。てっとり早く体術で勝負ね? 地面についた方が負けー。」
結果は・・・いうまでもない。
むかってきたアスランの手首をちょい、とひねり、そのまま後ろにまわりこむ。
あとは自分の体重をかけて、地面に組み敷く。
「いっちょあがりー♪」
体格の差、といっても子供同士。
普段ラウや父を相手にしてる私に、アスランが勝てるはずなかった。
「すごいですわぁっ。では、わたくしに何を望みますか?」
にっこりと笑うラクスに、CDをさし出した。
「サインください。」
私のうしろで、負けたはずのアスランが大笑いしていた。
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【あとがき】
白いラクス・黒いラクス。
どちらも好きです。
今回はただ、『ピンクのお姫様』な彼女にしました。