アスランの部屋には、ザラ家と家で並んで写る家族写真が飾られていた。
月からプラントへ戻った日に撮ったもの。
ユニウス・セブンにいた母2人から、最後に届いた贈り物だった。
誰もが、幸せそうに笑っていた。
その写真たてを手にとると、後ろのカバーが外れてしまった。
「ごめ・・・・。アスラン?」
音に振りむいたアスランに謝ろうとしたけど、カバーと一緒に落ちた物に、私の目が留まる。
「手紙?」
アスランが近寄って拾った。
アスランの物・・・じゃないみたい。
「レイラおばさん?!」
アスランの驚きの声に、私は声もなく驚いて、紙を覗きこんだ。
開いた紙の上には、見覚えのある文字。
確かに、母の字。
「『アスランへ。レノアは死後も私が守ります。貴方に・・・の加護がありますように。』・・・・まさか。」
「知ってたの? お母さま・・・。」
知ってたの?
ユニウス・セブンが撃たれること。
なら、どうして逃げなかったの?
どうして?
「どうして・・・何もしないで、死んだの・・・?」
戦争を始めることが、パトリックおじさまの目的だったから?
「そんなことにも従うのがなの?!」
アスランが、怪訝な顔をした。
「。さっきからどういうことだ? “”って、名前じゃない別の意味があるのか?」
「はね、“みがわり”」
アスランに話し出した私は、妙に落ち着いていた。
「はね、ザラ家の代わりなの。・・・裏の部分の。
ザラ家の地位が高まれば、当然ヘタな輩から命を狙われることもある。邪魔な存在がでる。
ザラ家ですべて処理するのは難しくなる。それで、が出てくるの。
ザラに代わって、裏で取引したり、・・・殺したり。一生ザラに使えるのが“”。」
私のセリフに、アスランの目が大きく開かれる。
不安を隠すように、私は笑った。
「お父さまとお母さまは訓練だけだけど、私には遺伝子操作もされた。」
何か言いたげなアスランを目でさえぎって、私は話を続けた。
「殺人能力遺伝子が高められてる。」
「なん・・・だと?」
「でも訓練しなきゃ、それはただの器だから。・・・一年先に私が帰ってきたのは、それが理由。」
まるで他人事のように、私は笑った。
アスランの手が無言で伸びてきて、私を抱きしめていた。
「アスラン、黙っててごめんね。」
謝ると、抱きしめていたアスランの腕に、さらに強く抱きしめられた。
「どうしてそんな事、が・・・!」
「最初はね、私もそう思った。でも、守るために力をつけようと思うことにしたの。
生まれる前から決められてた運命を、どうやっても変えられないでしょ?」
一年で、私が出した結論。
「・・・・守れなくて、ごめんなさい。レノアおばさまを、守れなくてごめんなさい。」
また、悲しみがあふれてきた。
ユニウス・セブンが撃たれると知っていたおじさまとお父さま。
ユニウス・セブンが撃たれると知っていたお母さま。
みんなを止めるのは子供の私たちだったのに、それを知らずにいた。
それもまた罪。
私たちはただ、守れなかった。
大切な肉親を。
それが結果。
誰を責めても、もう還らない。
「だからアスラン。私も軍に入る。今度こそ、守るために。」
アスランが腕の力を緩めて私を見た。
「アスランに、私が、の加護を。・・・・?!」
言い終わる前に、アスランにキスされていた。
ゆっくりと顔を離したアスランは、私の知らない男の顔をしていた。
「アスラン?」
ベッドの上で、ハダとハダを重ねながら考えた。
こうすることでしか、慰めあえない。
かわいそうなアスラン。
かわいそうな。
この行為が、同情でしかないことを、私たちは知ってる。
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