。俺はザフトに志願する。」


アスランから言われて、私は驚いた。
戦争を、嫌だと言っていた。
人と人で戦いなんて、あっていいはずない、と。
その、アスランが――――?


「アスラン、意味わかってる?」
「ユニウス・セブンから考えた。プラントを守るために、俺は戦う。・・・あんな想いは、もうたくさんだ。」
アスランの目に、迷いは見られなかった。

優しいアスラン。
何かをしない訳にはいかなかったんだね。
真面目なアスラン。
きっと、“嫌だ”で済むことじゃないって、思ったんだね。

「アスラン、私もいく。」
私の言葉に、アスランはぎょっとした。
「何言ってるんだ。君は女の子だろう!?」

アスランらしいね。
女の子、だから戦えない?
でもね、アスラン。
今の時点で私の戦闘能力は、アスランより上なんだよ。

「私ね、アスランに秘密にしてることがあるんだ。」
今なら、言えると思った。



コーディネーターは、生まれてすぐに何でもできるわけじゃない。
基本能力が、ナチュラルより上なだけ。
だから私も、遺伝子で殺人の能力が高められていても、努力しなければその能力を取得することはできない。
実際、ラウによる訓練は一年以上続いていて、私はつい先日、初めてナイフでラウを負かした。
今は戦争が本格化して、ラウが相手をする時間はなくなったけど、訓練は相手を父に代え、毎日続いていた。
体術だけは、やっぱりその体格差で勝てないけど、ナイフ戦では何とか父も追い詰められるようになってきた。

だから、ザフトに入ったってやれる。
何よりアスランがいく、と決めたなら、私はいかなければならない。
父が、パトリックの“それ”であったように、
母が、レノアの“それ”であったように、
私は、アスランの・・・・・。


「だめだ! は残れ。」

せっかく“秘密”を話そうとしたのに、軍に入ると言う根本を否定されてしまった。
「アスラーン、聞いてよーー。」
こういう一本気なところもアスランらしいけど。

「だいたい、ラレールおじさんが許すはずないだろう?」
許すよ。
残念だけど、許すと言うより、決定だな。

そんなことを思っていたら、グイっとアスランに引き寄せられた。
「アスラン?! どこへ―――・・・?」
「父上の部屋だ! 自分のことを伝えに行く。」
「何で私も?」
のことは、止めてもらう!」
だから、決定だって。


このときは、荷作りしなきゃ、とか、のんきなことしか考えてなかった。
ザフトに入る、とは言ってもいきなり戦場、ということはない。
誰だって、戦争なんてやったことない。
主力となるモビルスーツのシュミレーション、ナイフ戦。
それら諸々を訓練しなければ、コーディネーターといえど、戦場で生き抜くことは難しい。
そのために、軍人を育成するアカデミーに通うのだ。

全寮制のアカデミー。
その後も、宿舎に寝泊りする軍人生活。
何かと不自由しそうだけど、仕方ない。


アスランにひっぱられながら、はぁ、とため息をつくと、
「パトリック!」
とがめるように怒りをこめた、父の声が聞こえた。
とっさにアスランと顔を見合わせる。
アスランが、人差し指を一本、口にそえた。

盗み聞き・・・するのね?



「子供らには、黙っている約束だぞ。」
「わかっている。」
「それならばもう、この話は・・・ッ」

ラレールとは対照的に、パトリックは落ち着き払った声で答える。
「戦えば、我らが勝利は目前だ。そのための宣戦布告は必要なのだ。」
「・・・・・・。」
「“血のバレンタイン”は、我らに必要な犠牲だったであろう?」

“血のバレンタイン”の言葉に、私とアスランはギクリと顔を見合わせた。
これ以上、ここにいてはいけない。
これ以上、この人たちの言葉を聞いてはいけない。
心とは裏腹に、私もアスランも、ここから動けない。

「ユニウス・セブンに核が撃たれると、わかっていながら。・・・非道な選択だな。」

手が震えた。
涙がこぼれる。

知っていた?
パトリックおじさまと、お父さまは、・・・知っていた?

「見殺しに・・・されたの?」
顔をあげると、アスランと目が合った。
アスランの目からも、涙がこぼれていた。
怒りと、悔しさに、くちびるをかみしめて。

父たちの言葉を聞いていたくなくて、私たちはその場を離れた。


「知らせはしたが・・・。自身の脱出までは手が打てなかった、ということか。」
「あぁ。・・・だが、敵は討つさ。ナチュラルどもを、すべて滅ぼしてな。」
二人の言葉を最後まで聞いていれば、私たちの気持ちも少しは救われたかもしれない。



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