「母上?! 何のマネですか、コレは!」
「いいから言われた通りにしなさい。」
ピシャリと言われては、イザークに反論する術はない。
イザークはしぶしぶそれに従い、今、使用人たちに連れて行かれた、の方を見た。
アカデミーからそのままの足で、私はジュール家に来ていた。
やっぱりあまりの大きさに、ひっくり返りそうになった。
家自体はザラ家と変わりないものの、圧巻は庭。
おそらくエザリア様の趣味なのだろうけど、イングリッシュガーデンが、これでもか!という広さで。
イザークが庭に立つと、バラと王子?
似合いすぎだ。
失礼ながらも時間がないので、アカデミーの制服でやってきた私。
エザリア様はいやな顔ひとつせず、迎えてくれた。
しばらく会話を交わしたあと、「似合いの服を用意した。」とのエザリア様の言葉を受けて、別室に移され今に至る。
服だけの着替えだと思っていたのに、下着まで脱ぎ、コルセットを着けられた。
おかしいぞ?と思う間もなく、自分にあつらえられた物。
「ウエディングドレス?」
オフホワイトの、やわらかく、ふんわりしたドレス。
髪はアップにまとめられ、白いガーベラの生花が添えられた。
初めて来た家で大騒ぎするわけにもいかず、驚きと戸惑いを隠したまま、仕度はすっかり整えられた。
「お仕度終りました。」
一人のメイドに手をひかれ部屋を出ると、そこにはイザークとエザリア様が立っていた。
「イザーク!」
イザークは、私を見て驚いていた。
けど、私もイザークを見て驚いた。
彼もさっきまで着ていたアカデミーの制服を着ていなかった。
うすいハニーブラウンのフロックコート。
これじゃまるで・・・。
「やっぱり良く似合っている。イザークそう思うであろう?」
エザリア様はひとり、満足げにほほ笑んでいた。
「イザーク。に庭を案内してさしあげて。」
エザリア様の指令を受けて、私たちはイングリッシュガーデンに出た。
こんなカッコで外歩いちゃって、いいのかなぁ・・・。
「お披露目用にと、母上が用意させたらしい。」
2人だけになって、イザークがおもむろに切り出した。
「え? だって、断ったはずじゃあ・・・。」
「話がまとまったその日に選んだと言っていた。」
なんて気の早い。
じゃあ、私たち2人で断ったときには、すでにこの服はジュール家にあった、ということですか。
さすがエザリア様。
「まるで結婚式みたいだね。」
私が言うと、機嫌を損ねたのかイザークは、フイと横をむいてしまった。
「次はグラミス・キャッスルをみせてやる。こっちだ。」
言うなり私の方も見ないで歩き出した。
私の何が、イザークの気にさわったのか、わからなかった。
「待って待って。イザーク!」
「何だ?」
足をとめ、イラつくように私をふり返る。
「なんで怒ってるの?」
私の質問に、ますます両眉をつりあげる。
だから怖くないって。そんなキレイな顔でニラまれても。
「明日から、俺は宇宙だ。」
質問した内容とは、まるで違う答えが返ってきた。
「ナスカ級ヴェサリウス。ローラシア級ガモフ。俺たちクルーゼ隊が乗艦する戦艦だ。」
「うん。」
「覚えておけ。俺は死ぬつもりはないが、一応な。」
イザークが何を言わんとしてるのかわかった。
軍人は、戦場におもむく者。
戦場は、人の命が散る場所。
「私はしばらく軍本部の宿舎に待機だって。いろいろな隊の要請を受けて潜入したりするから、
もしかしたら一緒の作戦に参加することがあるかもね。」
特殊部隊という名の通り、その活動は特殊で。
隊行動、ということがほとんどない。
個別に要請を受けて、他の隊の作戦に参加する。
それが私に当てられた役割だった。
「俺も軍人で、も軍人だ。婚約なんてしていても、守れるか知らんぞ。」
「・・・・そうだね。」
『結婚式みたいだね。』
私の言葉に、気を悪くした理由は、それ?
back / next
【あとがき】
約束は守るもの。
守れない約束はしたくない。
男気なイザーク、好きだ!!
ってか、もうイザークなら何でも好きみたい。