「気安く触るんじゃない。」
パンっと軽い音がして、私の肩をつかんでいたミゲル先輩の手が払われる。
私のとなりには、イザークが不機嫌そうに立っていた。
「あちゃーー・・・。」
ディアッカが、がっくりとうなだれた。

「何? こいつらデキてんの?」
イザークの態度にも、またもや気にする様子を見せないミゲル先輩にアスランが聞かれた。
「というか、何というか・・・・。」
「婚約者、ではありますけどね。」
ニコルの言葉にミゲル先輩は、なぜだかとても楽しそうな顔をした。

「まーまー、安心しろ銀髪。俺はどっちかってーと、こっちの女が好みだ。」
言うが早いか、ナスティの腰に手をまわし引きよせた。
「お? わかってんじゃねーか。」
ナスティはすっかり、先輩後輩という立場を放棄したらしい。

「おい、もう撮るぞ。」
「わりィわりィ、オロール。ほら、お前ら並べって。」
結局私ごとフィルムにおさめて、2人は(というかミゲル先輩は)ご満悦。
「また明日ー♪」と言い残して去っていった。
付き合わされるオロール先輩も大変だ。
というか、明日の卒業式も来るのか?

「おもしろそうな先輩でよかったね。」
「ラスティが2人って感が否めねーよ。」
ナスティの言葉に、あぁなるほど、とニコルと2人でうなずいた。


「アスラン、いるー?」
「何か用か? 。」
袖を通したばかりの赤い制服で、私はアスランの部屋を訪ねた。
アスランも見慣れた薄緑の制服ではなく、私と同じ色の制服に替わっている。
成績発表と共に、制服は交換された。
部屋の中には、制服と同じ赤い色をした軍服が掛けられていた。
赤の制服と一緒に渡された、赤の軍服。
同じ“赤”でも、制服と軍服は意味するものがまったく違ってみえた。

「別に用事はないんだけど。もう荷物まとめた?」
明日の卒業式のあと、一時帰宅が許されている。
が、あさってには再び軍人として、所属先へ配属となる。
着任ともなれば、それから先はいつ帰省できるかわからない。

「卒業式のあと、はナスティと?」
「ううん。入隊の準備もあるし、部屋も、いろいろ片付けないと。」
次に、いつ帰れるのかわからない部屋。
もしかして・・・・。とは考えたくないけど、こうしてこのまま、帰れないことだってある。

「それにね。どーーーーしても! ジュール家に来てほしいって、エザリア様が。」
だから本当に時間がない。
ナスティとたっくさん話したかったけど、ナスティもナスティで、家絡みの挨拶が待ち受けてるらしい。
さっき部屋にラスティが来て、明日の予定を話し出したとたん、顔がうんざりだと言っていた。

「そうか。イザークの家に行くのか。」
「アスランは、ラクスのところに?」
「あぁ。今度こそ、いつ戻れるかもわからないからな。」
「そうだね。」

たわいない会話のあとに、少しの沈黙。
破ったのは、アスラン。
。イザークとのこと、本当に・・・・。」
最後までは言葉にこそしなかったものの、アスランの目は“いいのか?”と聞いていた。
気まずい会話となると、決まって目線をそらすクセのあるアスランが、今日ばかりは私を見ていた。

「アスラン。私はイザークが好きだよ。」

笑顔で告げた私に、アスランが意外そうな、それでいてほっとしたような顔をした。
「イザークには、まだちゃんと言ったことないけどね。」
「そうか。・・・俺が心配する必要は、ないみたいだな。」
「え? やだよ。」
とっさに出た私の言葉に、今度はアスランも意外そうに驚いた。

「だって、アスランが心配してくれてなきゃ、安心して甘えられないじゃん。」
ずっと昔から、そうだったみたいに。

その理由を聞いて、アスランが穏やかに笑っていた。
「そうだな。」



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【あとがき】
 イザークの前にアスランに告白。
 アスランは・・・まだちょっと微妙、なのかな。