「最近みんなにいいよーに遊ばれてない?」
私の言葉に、イザークがキッと目をつりあげた。
「お前がペラペラ余計なことを言ったからだろうがっ!」
夜のトレーニングルーム。
婚約成立後も、この日課は変わらなかった。
「私を本気で落とすんじゃなかったのー?」
「うるさいっっ!!」
たわいのない会話をしながらそれぞれにトレーニングをしていたら、フッと目の前が真っ暗になった。
「うっそ。・・・何コレ?」
突然の暗闇に、何も見えない。
しばらくして機械音声が部屋に届いた。
<電力装置エラー発生。復旧は未定。>
外の様子をうかがうと、どこからも明かりが漏れていない。
アカデミー全体で装置が故障したみたいだ。
生命維持装置は・・・大丈夫だよね?
目が慣れてきて、どうにか物の判断がつくようになる。
「ドアも電力開閉だから開かない、か。」
イザークがドアのところにいるのが見えた。
「部屋にも帰れないの?」
「ヘタするとここで夜を明かすことになるか。・・・ちっ、明日は爆薬処理の筆記テストじゃないか。」
イザークってば、部屋に帰ってから勉強までする気だったの?
そんなところは尊敬する。
「アスランとは、仲直りできたみたいだな。」
イザークからそんな言葉を聞くとは思っていなくて、私は答えるのも忘れていた。
「おい、何とか言え。」
すぐにイラついたイザークの声が聞こえてきた。
輪郭までは判断できても、顔の表情まではわからないから、声にしなければ伝わらない。
「あー・・、うん。仲直り、というか・・今まで通り? ありがとう、イザーク。」
あの日ここでイザークは、私とアスランのやりとりのすべてを聞いていたけど、
それを誰にも(当然アスランにも)話さないでいてくれた。
私とアスランが“何もなかった”と装えるのも、イザークが何も言わないでいてくれてるから。
アスランはイザークに聞かれたこと自体、気がついてないんだけどね。
プラントの季節は、ちょうど冬から春へと移行されつつ調整されているところで、暖房なしではまだ寒い。
空調システムも止まったこの部屋は、汗をかいていた身体を、ますます冷たくさせた。
膝をかかえて丸くなっても、ちっとも温かくない。
「おい。」
あまりに静かだったので、寝ているのかと思っていたイザークから声がかかった。
「なに?」
眠いのと寒いのとで、ぼお〜っとした声で返事をする。
「こんなに冷たくなって! 寒いなら早く言え!」
イザークの手が、私の頬に触れていた。
その外見から体温は絶対低いハズ、と思っていたイザークの手は温かかった。
「イザーク、あったかーい・・・・。」
私はいつもアスランにするのと同じように、イザークに抱きついた。
「おいっ! コラっ!!」
予想してなかったであろう私の行動に、イザークは私を支えきれず転倒する。
「おい、!」
「これならあったかい。」
意識がもうろうとしていた私には、今の状況うんぬんよりも
イザークのぬくもりを放してなるものか!という思いのほうが強かった。
イザークはあきらめたように私を引き離そうとしていた手を止め、右手は自分の頭を支えながらも、
残った左腕で私の身体を包んでくれた。
「イザークは、どうして・・・・軍に入ったの?」
家柄もいい、才能もある。
生まれたときからエリートを約束されているようなものなのに、彼が入隊する理由が、私には思いつかない。
でも、入隊の理由を他人に聞くのは、ある種タブーのようになっていて、
私も聞かれたこともなければ、聞いたこともなかった。
こんな状況をいいことに、思わず口にしてしまった疑問。
イザークは嫌がるそぶりもなく答えてくれた。
「コーディネーターは優れている。だが、その力を使うも捨てるも自分次第だ。」
イザークの言葉が、どこか心の遠くに届いてくる。
「プラントを守るために、この力を使いたかった。それだけだ。」
まっすぐな、イザークらしい理由だね。
私は・・・・。
軍に入った理由をもたない。
「身代わりだから、アスランが希望したから、私はここにいて。
人を殺せと、遺伝子にあるから強くて。・・・私は、流されてここにいるだけ。」
自分の望む道も持たずに、の運命に従っただけ。
私は、無力だ。
「言っただろう。力を使うも捨てるも自分次第だ、と。」
力を、使うも、捨てるも・・・。
「人の命に責任を持とうと、特殊部隊を希望したのは自身だぞ。
遺伝子にそうと命令されていようが、はだろうが。」
私は、・・・・私?
「自分の望むように、その力を使えばいい。」
イザークの言葉まであたたかい。
イザーク。
・・・・・私、本気で落ちたかも・・・・・。
「・・・・おい。爆睡か? この状況で?・・・・ずいぶんと信用されたもんだな。」
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【あとがき】
落ちたのは眠りか?! ちゃんやーい。
紳士なイザークへの信用度は100%ですよ!