「、きっさまぁ! 余計なことをペラペラとしゃべったな?!」
足早にイザークが近づいてきて、その後ろでは金髪色黒が私にむかって謝っていた。
まーた、余計な一言を言っちゃったのね? ディアッカ・・・。
私は怒りグセのある夫はごめんだ!
本来ジュール家ほどの家柄ともなれば、婚約が決まればお披露目という形式があるのだそうだ。
エザリア様の申し出に、イザークも私も必死の形相で回避しようと抗戦した。
私たちはプラントを守るため軍に籍を置き、それを貫き戦い抜く覚悟であり、
今のこの戦火拡大の時期において、お披露目は相応ではない!と難癖をつけるようにたたみかけた。
エザリア様もその必死の様子に納得してくれたらしく、婚約決定の事実のみで了承してくれていた。
「ディアッカ、何言っちゃったの?」
下からギロリとディアッカをニラみ上げると、たいして反省もしていない彼は、頭に手をやりながら答えた。
「お披露目はしないっつーからさぁ、を本気で落としてからやりゃーいいんじゃねぇの?って。」
それじゃ私から聞きましたって、言ってるようなもんじゃないか。
「お前らな、俺のいないところでゴチャゴチャ口をはさむな!」
「妬いてるんですか? イザーク。」
私のとなりでニコルが、さらりとした笑顔と共に、さらりと恐ろしいことを言った。
「〜〜〜〜〜〜っっ!!」
イザークは言葉にならないほど怒りを溜めこんでいるようだった。
あーあ。
私に強気で宣言したイザークは、どこへやら。
ま、この二面性がイザークの良いところだけど。
「少しは落ち着きを持ってくれ、イザーク。そんなんじゃ、を安心して任せられないだろう?」
「なンだとおぉぉぉうっ! アスラぁーーン!!」
イザークの怒りをあおって、満足したようにアスランは歩き出した。
私はそれに続いてアスランの顔をうかがうと、アスランは私の顔を見ていたずらっぽく笑った。
私もつられて笑った。
イザークと私が婚約者になったといっても、それはまだ形だけ。
私たちのなにかが、変わったワケじゃない。
体術の授業では、卒業試験が始まっていた。
クラス全員総当りのため、一番時間がかかるからだ。
楽しかっただけの訓練に、終わりがみえてくる。
私たちが実戦に出る日も、もうそう遠くないのだと、全員の顔にも緊張の色が浮かびだす。
今日の対戦の一番の目玉は、マッケンジー姉弟の対戦だった。
「ナスティ、がんばれーっ」
「ちゃ〜ん、俺にもォっ」
「うぜぇ、ラスティ。いくぜ!」
体術の初日。
姉弟ゲンカの延長のように戦い続けた2人。
あれからまだ一年が経たないのに、身体つきも戦い方も、すっかり戦士の風貌が漂っていた。
2人の決着はなかなかつかず、戦いは消耗戦になっていく。
長引けば、体力的に女性であるナスティの方が不利だ。
ガツン、と組み合ったと思ったら、ナスティはラスティに吹っ飛ばされた。
「そこまでだ。勝者、ラスティ・マッケンジー。」
「うおっ、やりィ!」
「あ゛ーーっっ! くそぉ、油断したぁ・・・。」
勝った方のラスティは、口の中を切ったらしく、血を吐きだしていた。
「嬉しいけど、いってぇ・・・。」
ナスティはそんなことお構いなしに、ラスティの背中をドンっとどついた。
「腕上げたなぁ、ラスティ!」
「だから。いてぇって・・・ナスティ。」
時間はあわただしく過ぎていく。
戦火は日に日に拡大し、この戦争の行方がどうなっていくのかはみえない。
私たちもまた、それを知らない。
不安を振り払うように、私たちは訓練を重ねる。
今はまだ、それしかできない。
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