私は、アスランに向かってナイフを構えた。
勝負がつかないかと思われたアスランとイザークの戦いだったのに、イザークが足を滑らせた。
そして、あっけない幕切れとなった。
いつものように心底悔しがり、アスランをニラみつけるイザーク。
そのあと、めずらしくアスランが挑発的な言葉を吐いた。
「お前に負けるわけにはいかない。」
その言葉の裏に、どんな意味があったかなんて、このときの私は知らない。

「いくよー、アスラン!!」
「・・・・こい。」
何度か討ち合って、私は倒れた。
「うそ?!」
辺りがざわめく。

うっそでーす♪

とどめを刺そうと近づくアスランの方に、そのまま転がり足を払う。
よろめきながらも、もち直したアスラン。
けど、私の反応速度に勝てるはずもなく。
私は背後から、アスランにナイフをあてていた。

「そこまで!」
フレッド教官の声が響いた。
私はニコっと笑いながら、アスランに手を差し伸べた。
「あんなのにひっかかるとは思わなかったな。やっぱり具合悪い?」
「・・・いいや。が強いんだよ。」
私に助け起こされるアスランは、苦笑いをして言った。



「オレは行かねーよ。じゃ、おやすみ♪」
どうせトレルーム通いの時間に起きてるんだから、今夜から一緒に行こう、と誘ったのに。
ナスティにはあっさり断られた。
「デートの邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまうし。」
誘った直後に言われた言葉には、この際目をつぶろう。
デートじゃないって。
だいたいトレーニング中は話さないし。


今日はトレルームにイザークがいた。
背中を向けて熱中してやってるみたいだから、声をかけないでいた。
私も無言でトレーニングを始める。
トレーニングを日課にしたおかげで、体術においても身体の動きが大分軽くなった。
銃の片手ホールドはまだ命中率が下がるから、両手だけど。
それでも両手で反応速度が早くなったのは、やっぱりトレーニングの賜物か、と。

「あれ? イザークもうシャワー?」
気づいたら部屋にイザークの姿がなかった。
それとも、もう帰った?
何気なくドアに目をやると、シュンっと音がしてアスランが入ってきた。

「あれー? アスラン、めずらしいね。」
。・・・・話がある。」
「何? いつも以上にテンション低くない?・・・レクルーム行く?」
「いや。ここでいい。」
なんだか最近のアスランは変だと思う。

は、イザークをどう思ってるんだ?」
「はあ?」
予想もしなかった問いかけに、声がひっくり返った。
「何でそんなことを、私が聞かれるの?」
ところでイザークはシャワーなの? 帰ったの?
なんだか聞かれたくない会話になりそうで、私はイザークの行動を見てなかったことを後悔した。

「ラレールおじさんから連絡があった。」
お父さまから?
「エザリア様から婚姻統制に基づき、イザークとの遺伝子の相性を調べたい、との申し出を受けた、と。」
考えてもいなかった展開に、言葉もでない。
そういえばナスティが言ってたっけ。
エザリア様はやるときはやる人だって。
それが・・・これ?!
早めの相性調査と婚約が推奨されてるとはいっても、本人に何の伺いもなく?!


婚姻統制。
コーディネーター第三世代の出生率低下に伴い、制定された法律。
婚姻を希望するものは、誰もがこの審査を受けなければならない。
申し立てた当人同士の遺伝子に基づいて、2人の子の出生率を割り出す。
その率が85%以上なければ、結婚できない。
また、相手を選ばず子を出産したいと申し出た者にも、対策がある。
政府の調査により85%以上の出生確率のある遺伝子を持った相手があてがわれるのだ。
婚姻統制の制定から、20歳を超えた者には自動的に相手が通達されることもあった。

アスランとラクスの婚姻にも、調査があったとは聞いている。
確率が85%以上なければ、いくら議長と国防委員長との政略結婚といえ、成り立ちはしなかった。


「でも・・・。私はザラ家に一生仕えるワケだし。嫁なんていけないんじゃ・・・。」
「だから俺だってかけ合ったさ! 約束が違うと!」
ますます意味不明な言葉が、アスランから出てきた。
「どういう意味?」

「ラクスと、俺の婚約が決まったとき、俺はまだ家の役割を知らなかった。だけど・・・っ」
アスランのエメラルドグリーンの瞳が、私を見た。
「俺は、がずっと好きだったんだ。」

―――――― え? ――――――

「だから、ラクスとの婚約を拒否したいと父に言ったんだ。」
初耳だよ、そんなの。
「けど、俺との調査はすでにされていたんだ。結果、出生確率がなかったと言われた。
 だから、ラクスとの婚約を拒否したところで、と一緒になることはできない、と。」
私は、何も、聞いてない。

「ラレールおじさんは言ったんだ。俺が誰と結婚しても、は必ず俺の傍にいると。」
約束が違うって、そのこと?
「おじさんのその言葉が、の家の役割を示していたとは、思わなかったが・・・。」
「な・・・に? 何言ってんの? アスラン。私は・・・ッ!」


ショックだった。
何にどんなショックを受けてるのかわからないほど、ショックだった。



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【あとがき】
  あとがきというより、言い訳。
  当初の予定では、アスランとちゃんは本当に幼なじみだけの関係でした。
  ところが、イザークとちゃんとくっつけるぞ!と書き出したライナに、
  アスランが待ったをかけてきたんです。
  自分もが好きなんだ、このままイザークに渡してたまるか!と。
  ギャーギャー騒ぐので、いつの間にかこんな展開に。
  ・・・・報われませんけど。