この日は朝から穏やかじゃなかった。

朝食の時間になっても食堂に現れないアスランを心配して部屋に行くと、
すでにアスランの姿はなかった。
緊急の用事だとかで、今日は休暇をもらって家に帰ったらしい。
はて?
私はそんな話、受けてないぞ。

お昼過ぎに、アスランは帰ってきた。
でも、あきらかに顔が怒ってる。
「アスラン、何かあったの?」
心配して聞いたけど、アスランは私の顔を見て、ため息をつくばかりで。

「次の授業はナイフ戦ですよ? 大丈夫ですか? アスラン。」
「寝てろ寝てろ〜? 医務室で。」
誰に何を言われても、アスランは「大丈夫だ」をくり返す。

「俺がお前の目を覚まさせてやるよ。」
イザークがいつものように言ったときだけ、ものすごい目で反応したアスランに気づいたのは、
言った本人のイザークだけだった。


「今日は最終テストと同じ形式で、模擬戦をやる。」
フレッド教官が言った。
あまりに突然のことに、ザワつく生徒をよそに、驚愕の形式を説明された。

「なーに話は簡単だ。自分以外はすべて敵。倒されれば即終了。最後まで立ってた奴が勝者だ。」
その言葉に一同騒然。
リーグ戦とかトーナメント戦とかでなく、生き残りバトルっすか?!
体術は何日かかけてクラス全員総当り戦だと聞いていた。
ナイフ戦、おそるべし。
・・・ってか、2位以下わかるのか?

ふって湧いた疑問は、フレッド教官の「はじめ!」という声にかき消された。
せめて作戦くらい考えさせてくださーい!
誰もが思ったであろうことも、あちこちでぶつかり合うナイフの音に消えていった。

「なーんか私、楽しちゃってない?」
開始と共に私のそばから人が消えた。
長く残ってた方がいいわけだから、自分より強いと思う相手には向かっていかない方が賢明だ。
みんなあんな短時間で、ちゃんと考えるんだね。
ふと見ると、ナスティやディアッカ、アスランにニコルも見学組。
常に戦ってなきゃいけないって言われたわけじゃないから、これもありなのか?
イザークとラスティは、好戦的に戦っていた。

「さーてと、やるか?」
ディアッカの声が合図となり、見学組はひとりもいなくなった。
私にはラスティが向かってきた。
「やったーーー!! もぉーらい!!」
最初から身体を動かしていたラスティは、勢いを力に乗せて討ちこんできた。
ナイフで受けると重みが増す。
戦ってるのに、マッケンジー姉弟はいつも笑顔。
つられて私も笑顔になる。
ラウとの訓練では味わえなかった充実感。

「ラスティ終了!」
首筋にピタっとナイフを寄せて私が言うと、ラスティは大の字に倒れた。
「うーちー死ーにー・・・。」
さぁ次! と顔をあげると、アスランとイザークしか残ってなかった。

あとから聞いた話では、
ニコルとナスティの連係プレーにディアッカは敗れ、ニコルとナスティは相討ちしたらしい。

ー。どっちの味方?」
ナスティが聞いてきたけど、私はナイフをパチンとしまって言った。
「勝った方とやる。」
つまり、アスランvsイザークは見学に決めた。

「いやあぁぁぁぁっ!!」
イザークが踏みこみ、アスランが防ぐ。
この2人の実力はほとんど互角で、いつもどっちが勝つかは運次第。
クラス中が2人の対決を見守っていた。

「なぁ、どーせならあの2人でかかって、倒せばいいんじゃねー?」
ディアッカの意見に、なーるほど、と頷くラスティとナスティ。
「アスランとイザークが、協力すると思うんですか?」
「・・・・・・う゛ーーーー。」
ニコルの意見はもっともだった。
「かと言って、どちらかひとりでを倒すのは、無理でしょうけどね。」
やっぱりニコルの意見はもっともだ。

アスランとイザークの勝負は、永遠つかないかに思えた。



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