夜のトレルーム通いは、あれから私の日課になった。
アカデミーで過ごせる時間も、あと半分をきった。
とにかく今は、得意課目で負けるわけにいかない。

イザークと顔を合わせることも増えた。
驚いたことに、彼もトレルーム通いをしていた。
「イザークって、努力とか無縁な人だと思ってた。」
一度そう言ったら、やっぱり怒鳴られたけど。
私が言いたかったのは、努力しないってことじゃなくて、努力しないでもできちゃうタイプって言いたかったんだけどね。
「努力しないでできることなんてあるか!」
あわてて訂正しても、やっぱり怒鳴られた。

トレーニングのあと、シャワーを浴びて、部屋の前まで送ってもらう。
これもすっかり日課になっていた。



、右!」
モビルスーツのシュミレーション中、ナスティと組むと主導権はいつも彼女にある。
ナスティは視野が広い。
そしてカンはさえまくる。
見えていない敵まで察知する。
だから私は、ナスティの指示を聞き漏らさないように、全神経を彼女の声にむける。
終ってみれば、今日のスコアはランク3位。
「やったーーー! ナスティ、みてみて!」
「お? はスコア自己新じゃねェ?」
「そうなのー! ナスティさまさまだよー。」


特殊部隊への入隊を希望する。
ナスティに話したとき、急に軍人になるという重みを感じた。
楽しいだけの毎日に、終わりがくるのだと、誰かに告げられている気がした。

「同期2人の女子パイロットが、同じ部隊に配属されるなんてありえねェんだろうけどさぁ。」
ふて寝するかのように、ベッドに潜ったナスティ。
「やっぱ、さみしいよな。」
最後の言葉は、聞きとれないほど小さな声だった。
「ナスティ、だーいっすきーーーっっ!」
私は布団ごとナスティを抱きしめた。


「よし、大丈夫だ。」
アスランからジンのOSデータを返されて、心の中でガッツポーズ。
今回から誰の力も借りず、自分で仕上げた。
でも心配だから、アスランには見てもらって。

「苦手なこと、とことんやらなかったのにな。」
目を細めてアスランが言った。
私たちが思い出してるのは、きっと同じこと。
私以外に、あと一人。

――――― キラ ―――――。

どこにいるの?
でも、元気でいてくれたら、それでいい。
軍に入る私たちを、キラが認めてくれないのは、わかってるから。

「アスラン。」
「うん?」
「戦争が終ったら、会えるよね?」
「ああ。」
誰に、とは、お互い口にしなかった。



その頃。
通信機の前でイザークは立ち尽くしていた。
めずらしく外部からつながれた通信相手は、自分の母だった。
後ろで聞いていたディアッカも、あまりの事態に目を丸くしていた。
「ではイザーク。これからも訓練に精進しなさい。」
息子の気持ちも知らず、同じ顔をした母は満足そうにほほ笑むと、一方的に通信をオフにした。

「なん・・・っだとおォォォォォォォォっ!!」
イザークの雄叫びは、ディアッカの耳を直撃した。



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