ただ幸せだった頃。
私の、家の“定め”を知らなかった頃。


「だから、わからないんだよぅ」
私は、パソコンの画面いっぱいに広がる数字の羅列と、キラの顔を交互に見て言った。
出されているプログラミングの課題。
提出は、明日。

「私の遺伝子には、数字っていう概念を落としちゃったんだよ、きっと。」
「だとしたら、買い物だってできないでしょ?」

買い物?
買い物とプログラミングが同レベル?!

「キラ、わかんない。」
私が言うと、アスランがぷっと笑った。
「何よー、アスラン。バカにした?」
眉をひそめて抗議すると、アスランはあわてて、
「違う違う。じゃなくて、キラ。」
と言った。

「え? 僕?」
「そう。・・・お前、この前俺にも言われたろ? “わかんない”って。」
「あー、“米に字書けるタイプ”?」
たまらず笑い出す2人。
何よ、今度は私がわからない。

ブスっとした私を見て、2人は交互に説明してくれた。
キラの大嫌いなマイクロユニットの課題をアスランが手伝って、あまりの細かい指摘ぶりに、キラが言った。
「アスランて、米に字書けるタイプだよね。」

その組み合わせの意味するところがわからず、
「キラ・・・・。言ってることがわからない。」
と答えたアスラン。

つまり、
シチュエーションが逆なのに、またもや“わからない”と言われてしまった
キラがおかしかったのだと、アスランが言った。

「僕には、同じこと言うアスランとがおかしい。」
キラがすねて言ったけど、やっぱりその言葉も私たちを笑わせた。


キラはかわいい。
性格がすねてなくて、まっすぐで。
私より涙もろくて、そのくせ頑固。
泣くとますます頑固。
得意なことをやるのは早いくせに、苦手なことはトコトンやらないってのは、私も同じだけど。

アスランは優しい。
学校では、ポーカーフェイスのアスラン君って言われてても、それは感情表現がヘタなだけで。
実は誰よりも純粋。
私とキラに、すぐお兄さんぶるのは悪いクセだけど、それをいいことに、すっかり甘えている私たち。

私は、この2人が大好きだった。


それからしばらくして、私だけがプラントへ帰ることになった時。
悲しいと言うより、不思議だった。

いつも一緒にいたアスランが、まだ月に残るのに。
ずっと一緒だったキラが、まだ月にいるのに。

私だけが、プラントへ帰る。


月からのシャトルに乗っても、2人と別れた実感はなかった。
何より、プラントへ帰っても家はアスランと一緒なんだし。
アスランだって、ずっと月にいるって事はないだろう。
母3人はとても仲が良いから、もしかしてキラの家も、いずれプラントへ来るかもしれない。


13歳の私には、そんなことしか考えられなかった。
いつの間にか眠ってしまった私を、
哀れむような目で見ている母の顔も知らずに。



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