待っててもらったイザークに、お礼もこめておごるから、と、レクルームに立ち寄る。
スポーツドリンクを一気に飲みほすと、逆に目が覚めてしまった。
「今日ね、ユウキ教官に呼び出しされたんだ。」
「あ?」
何の前触れもなく話し出した私に、イザークが不審な顔をした。
「あ、ごめん。もう寝たい?」
時間が時間だったことに気がついて、時計を見る。
やばっ。もう2時近い。
「聞いてもらいたいなら聞いてやる。」
「じゃ、お願いします。」
ここは素直に甘えることにした。
「パイロットじゃない方向で、入隊を考えてみないかって。」
イザークが目を見開く。
それ以外、なにで入隊するんだ? と、目が聞いている。
「特殊部隊。・・・工作員で入隊の方向はどうだ?って、聞かれたの。」
「何だと?」
「もちろん作戦によってはモビルスーツに乗ることもあるから、毎年1人は行くらしいよ?」
イザークは良い顔をしていなかった。
心外だ、と訴えている。
イザークじゃなくて、私のことだってば。
「はそれでいいのか? 俺だったら絶対ごめんだ。」
だよね。
イザークが“パイロット”というものに誇りを持って訓練していたの、わかるから。
射撃、モビルスーツシュミレーション。
この二課目は、アスランとダントツのトップ争いだもん。
だけど、私は・・・・。
「実は、自分でも思ってた。迷ってるんだよ。・・・ってか、肉弾戦トクイだから、私。」
体術にナイフ戦。
私が最も得意とするのはこの二課目で、パイロットでは生かす機会も限られる。
「それに、モビルスーツに乗ったら、忘れちゃいそうでこわいの。」
“こわい”の言葉にイザークの片眉がピクっと反応した。
軍人にあるまじき言葉、とか思われたんだろうな。
「何がだ。」
「相手が人間だってこと。敵とはいえ、他人の命を奪ってるってこと。シュミレーションの延長になりそうで。
・・・何か、ゲームやってるような感覚っていうのかな?」
実際に目で見て撃つのは、メビウスなどのモビルアーマー。
人の姿はしていないから、人が乗って操っているその事実を、忘れてしまうのがこわい。
「人として大切なこと、忘れちゃいそうだから。」
ナスティとアスランに話したとき、自分がどうするかまでは伝えなかった。
考え中、とだけ答えていた。
でも今、イザークには自分がその道を選ぶ理由まで話していた。
しばらくの沈黙。
さっきから何も言わずに私を見てたイザークと、意を決して目を合わせる。
「こんな考え方自体が、パイロットにむかないと思うんだよね。」
私が言うと、それまで怒ったように話を聞いていたイザークが、ふっと笑った。
「後悔は、しなそうだな。」
言われた言葉よりも、イザークの表情に気持ちが引かれた。
こんな優しい顔するんだ。
けれどイザークは、その表情をすぐに引き締めていった。
「なら、生身の相手に迷うなよ。お前が死ぬぞ。」
迷わないよ。
知ってる? イザーク。
私の遺伝子、すごいんだから。
今はまだ、教えてあげないけどね。
後日、私はお父さまとパトリックおじさまに報告した。
自分の気持ちは決まっていたけれど、私にはの運命もあったから。
ひとりでは、決められなかった。
アスランと一緒でなければダメだと、圧力をかけられることも考えていた。
けれど2人は、あっけなく認めた。
私の存在は、今必要なのではなく、戦後の方が重要なのだとおじさまは言った。
だから今は、ウデをあげるために戦場へ行け。と。
そういうことだった。
戦後。
じゃあ私は、敵でない者・コーディネーターを、殺すことがあるの?
口先まで出てきた疑問を、押し殺して、飲み込んだ。
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