。今の言い方は、あんまりいい気がしないな。」
アスランの目がすわった。

アスランは、イザークみたいに感情を表に出して怒ることはない。
イントネーションなんかはもちろん怒った声にはなるけど、とにかく目に出る。
その怒った目で、私は見られていた。

「いい意味で言ってないもん。」
今度は無言でニラまれた。
「アスランは何でもできるのに、そんな言い方ズルいよ! あとはイザークに聞くからもういい!」
荷物をまとめて出て行こうとした私に、アスランの冷たい声がかかる。
「お礼くらい言ってから帰れよ。」
お礼の代わりに、私は思いっきり叫んでやった。

「アスランのばかーーーーっ! はげちゃえーーーーっっ!!」
われながら、子供じみたセリフだとは思う。


「イザーク! モビルスーツ工学教えて!」
ノックもなしに部屋に飛びこむと、イザークとディアッカが驚いて私を見た。
「勝手に入るな。ばか者。」
イザークの言葉はフイっと無視して、これまた勝手にイザークのパソコンをたちあげる。
自分のプログラミングファイルを差し込むと、画面をイザークに押しやった。
「卒業制作のジンのOSつくってるの。今日のシュミレーションのデータ入れたいから、見て!」

一気にまくしたてた私に、イザークもディアッカもあきれ顔。
「それが教えてもらう態度か? 何を怒っている。」
「・・・・アスランとケンカした。」
怒りにまかせてキーボードをバチバチたたいていた手を止めて答える。

「私ね、アスランとずっと一緒に育ってきたの。アカデミーに入っても、一緒のことやってるのに、
 アスランはどんどん先へ行っちゃうの。それなのにアスラン、自分はすごくないって言うんだよ?
 ・・・・・そんなのって、私がみじめじゃん。」
そんなことでケンカになるのかと、ディアッカはあきれていた。
「アイツのそういう物言いは、性格だからしょーがねぇよ。」
「いや。俺もと同意見だな。できることをできると言わないから、余計ムカつくんだ。」

アスランとイザークは、いわば正反対の性格をしていた。
イザークは、決して自分を下げて言わない。
それどころか、できて当たり前だとふんぞり返る。
そこまでプライドが高いのもどうかと思うけど、今の私にはこっちの方が心地いい。


ちがーーう!! 貴様、俺に教わる気があるのか?! できないことをムリにやってどうする?! ばかものォ!!」
・・・・・・・心地いい・・・・・・・はず・・・・・。

今日のデータを入力し終わって、イザークにお礼を言って部屋をあとにする。
出て行こうとする私に、ディアッカが声をかけてくる。
「ちゃんとアスランと仲直りしろよ?」
今はもう反省してたから、おとなしく「うん」と答えた。



「アスラン、いる?」
ひどいことを言って部屋を立ち去ってた私だったから、おずおずと声をかける。
「何の用だ?」
自業自得とはいえ、こんなアスランは怖いよー。
ええい、とっとと謝ってしまえ!

「さっきは、ごめんなさい。」
深々と頭を下げると、アスランが笑った。
「こんなに早く謝られるとは、さすがに思わなかったな。」
よかったー。アスラン笑ってくれたよ。

「アスラン。私、アスランに置いていかれること、あせってたみたい。」
イライラの理由を伝えると、アスランはまた、ふっと笑った。
「何言ってるんだ。最初に置いていかれたのは、俺の方なんだぞ。」

私がアスランを置いていった?
そんなばかな。

「アカデミーに入ったとき、スタートラインは同じじゃなかっただろう? の強さは半端じゃなかった。」
でも、それは・・・。
「ナイフ戦なんか未だに勝てないさ。ラクスの前でやられた俺の気持ち、今のと同じだったぞ。」
「でも・・・。もう体術は負けてきてる・・・。」
「俺が必死だからだ。遅れをとった分、今追いつくしかないだろう?」


アスラン。
私たち、同じだったんだね。
ありがとう、アスラン。
私もまた、追いついてみせるよ。



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【あとがき】
 ちゃんが言ったから、はげちゃったの?アスラン。
 って、ウソです。冗談ですってば!
 でも、あのセリフのあとの彼、きっと激しく落ち込んでいたものと思われます。