「サギにあった気分だよ? ナスティ?」

その日。
部屋に戻ったとたん、私はナスティに詰め寄った。
あんなことしてるなら、最初に言っといてほしかった。
「ごめんてー。だいたい、あんなの何て言っときゃいーんだよ?」
「それはー・・・。私はお嬢様よ、とか?」
私の答えにナスティ、バカうけ。


結局あの日、ラクスとは話ができなかった。
アイドルの彼女のまわりには、常に人垣ができていて・・・。
一度目が合ったときに、ニコっと笑いあった。
それで終わりになってしまった。


「そういやは、エザリア様に気に入られたんだって? 覚悟しとけよー。あの人、やると言ったらやる人だぜ?」
ひえーーーーっ!
「嫁だよ? 嫁。しかもイザークの!・・・あれ? 何でナスティが知ってんの?」
「ニコルから聞いた。あいつ情報収集早いよなー。」

ニコル、と言われて、ナスティとのダンスシーンを思い出した。
いま目の前にいる人と、本当に同一人物だろうか。疑問だ。
「アカデミー在籍中に婚姻成立にかけといたから、がんばってくれよ!」
何をどうやってがんばらなきゃいけないのか、教えてほしい。
そして、どこでかけになってるのか、教えてほしい。


次の日。
案の定ディアッカからあきれたように言われた。
「何で今度は俺が聞かれなきゃならないんだっての。女性に愛想のないジュール家のご子息が、
 どうして家のご子女と踊っているのかってー? あいつら、こればっかりだったな。」

月で育つ環境を与えてくれた両親に感謝。
もしプラントで育っていたら、あのパーティーって日常的にあったわけでしょ?
さすがに開戦してからはパーティーどころじゃないけど、開戦前はそれこそ毎週のようにあったらしい。
あんな中で育ったら、今後の人格形成に大きな影響を受けた。
それを見越しての月移住だったのかな?
だとしたら、本当に感謝。
おかげで私は、自分らしく成長できました。



今日の爆弾処理訓練は、ニコルの独壇場だった。
処理に失敗すると箱からポンっと白い煙が上がる。
ニコルはただ一人、レベル5の箱まで解体した。
ちなみに私とディアッカ、ナスティ、ラスティはレベル3まで。
イザークとアスランがレベル4まで解体成功。
同じコーディネーターでも、能力差は当然ある。
でもどの課目でも、イザークとアスランは常にトップ3に入っていた。

こうしてどの課目においても順位がつけられるのには理由がある。
通常の授業と、卒業間際に予定されている卒業試験。
この総合成績順位トップ10には、軍に籍を置くにあたり、特別な色が与えられる。
一般兵の軍服が緑に対して、トップ10入りした者だけには“赤”の軍服着用が認められるのだ。

一目でエリートとわかる色。それが“赤”
その色付けを決めてしまうのは、アカデミーの成績がすべて。
今後、いかに戦場で活躍しようと、一度緑を与えられたものが“赤”を着られることはない。
そう考えるとすごくシビアなんだけど、私にはワクワクすることでもあった。
頑張った者へのごほうび、に思えて。
私が赤を着るためには、唯一の汚点であるモビルスーツ工学、がんばらないと。


最近になって、無敵の強さを誇っていた体術で、私はアスランに負けた。
たった一度の敗北が、ものすごいあせりになった。
追い抜かれる恐怖。
ふと、ラウのことが頭に浮かんだ。
もしかして、ラウも感じていたのだろうか?
ナイフ戦で、私に初めて負けたとき。



「アスランは、どうして何でもできるの?」
いつものようにプログラミングを教わりながら、ふと尋ねてみる。
「別に。俺は何でもできるとは思っていないけどな。」

なんだか今の私には嫌味に聞こえる。
だってアスラン、どの課目もトップ3にいるじゃん。
そのアスランが“何でもできる”じゃないなら、私は何なの?

――――何もできない?――――

悔しくなってきた。
「謙虚な姿勢もいいけどね、アスラン。できることはできるって言わないと、嫌味になるよ。」
私の言い方には、明らかにトゲがあった。
今、この部屋に2人きりでよかった。
こんな醜い感情は、他の人に見られたくない。


あとから考えると、私はあせっていたんだ。
いつも一緒だったアスランに、置いていかれる、ということに。



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