パン パン パンッ
アスランが銃を構えると、面白いように的の中心に当たる。
思っていたより銃を撃ったあとの反動は大きくて、私は両手で銃をホールドして撃つ。

パンッ パンッ パンッ
これだと連射速度は落ちるけど、正確性の方を重視すればしょうがない。


銃の訓練は好きだった。
恐ろしいものを撃ってるというのに、邪念が払われる気がした。
引き金を引く、その指だけに集中する。
弾が的を射抜くと、身体がスッと軽くなる。

「すごいな。全部中心を捕らえているじゃないか。」
アスランが声をかけてくれた。
私は親にほめられた子供みたいに、にっこり笑う。
初めて銃を撃ったときは、そりゃもー、ひどい有様だったからね。
こうやって集中すればいいんだって覚えてから、メキメキと上達して、私も嬉しい。



射撃の訓練のあとは肩がこる。
「まだ変な所に力入れて撃ってんのかなぁ?」
言いながら自分のベッドにごろーんと横になった。
ナスティは自分の射撃データを見直していた。

「両手ホールドは力も入りやすいんだよ。も片手にすりゃーいいんだ。」
「うーん。それだと真ん中に当たりにくいの。」
ナスティは片手ホールドで重い銃も軽々と扱う。
やっぱウエイトトレーニングしなきゃダメか?

「どっか行くのか?」
立ち上がった私にナスティが聞くので、私は力こぶを作りながら答える。
「トレルーム、行ってくる!」



その日の訓練が終れば、学生たちはそれぞれ自由に時間を過ごす。
部屋で休んでもよし。
外出許可をもらうもよし。
アカデミーの校舎には開放されているトレーニングルームがあったから、そこで基礎トレもできる。
CICや整備候補の学生は、訓練の一環として体術、ナイフ、シュミレーションなんかもあるけれど、
やっぱりそれは本職じゃないので、
放課後のトレーニングルームはもっぱら、パイロット候補生のための部屋になっていた。


トレルームに入ると、知らない顔が2人いた。
知らない顔ってことは、パイロット候補生じゃないってことだ。
めずらしく知った顔がいない。
こういう日もめずらしいな。

トレーニングを始めようと用意をしたところで、先客の2人が話しかけてきた。
ニヤニヤ笑っているその顔は、どうにも好感をもてない部類だ。

「めっずらしーい。女の子でもこんなトコ来るんだ?」
「オレたち整備候補生なんだけどさぁ、君、CIC?」

うざい。
「別に、何だっていいでしょ?」
かまわずトレーニングを始めた私に、2人はなおも話しかけてきた。
あんたたち、そんな話したいならレクルームの方がむいてんじゃないの?

「せっかく偶然会えたんだから、仲良くしようぜ。」
「明日放課後、良かったら君の友達も一緒に外出しようよ。」

絶対嫌。
「忙しいから行かない。」
言い方にトゲがあるのはカンベンね?
これでも優しい方だから、やんわり断ってあげてるんだよ?

私の配慮も無視して、なおもくい下がる2人。
あんたたち、ココに何しに来たの?

「君。ラクス・クラインに似てるって言われない?」
言われない。
あっちは天使。こっちは戦士。

「似てるよ。その黒髪がピンクなら、顔立ち似てるから間違えられそう。」
ありえないっつーのに!
「うるさいなぁ。じゃまだからトレーニングしないなら出てって。」
私がキレる前に、出てってほしい。

「そんな冷たいこと言わないでさー。」
断られても断られても引き下がらないその寛大さは立派だけど・・・。
もうカンベンしてよ。


うんざりだ、とキレそうになったところに、シュンっと部屋のドアが開いた。
「ニコル。」
突然現れたニコルに、私も整備くんたちも目を奪われる。
ニコルは整備くん2人をあっさり無視して私に言った。
「お待たせしてすいません、。」
私の名前を聞いた整備くんたちは、顔を見合わせる。
さっきまでとは違う表情。

って、?・・・ナイフ戦でいきなり教官倒したって・・・。」
「ニコルって、ニコル・アマルフィだろ?!」
ヤバイ、という顔をした、と思ったら、急に愛想笑いになって。
「じゃ、これで!」
と言うが早いかトレルームを出ていった。


「ニコルが来てくれて助かったー。あの2人うざくてうざくて。」
笑って言う私に、ニコルはあきれたように言った。
、少しは自覚してください。」
は? 何のことだろう。

「そのきょとんとした顔だって、十分かわいいんですから。」
「はあ?」
「だまされやすそうに見えるんですよ? かわいくて無防備な子は。」

かわいい?
私が?
ニコルは何を言ってるんだ?

「本当に自覚がないんですね。」
「自覚、と言われても・・・。」
「まあ、力で押し倒そうものなら、は黙っていないでしょうから安心ですけど。」

なんだかどっちが年上なんだかわからなくなってきた。
でも、もし私がこの先戦場に出て、モビルスーツに乗ることになっても、
あの2人にだけは機体の整備を任せたくないな。
仮に今後、また今日みたいなうざい奴がいたら、一番に名前を名乗ることにしよう。


どうやら私の名前には、ものすごいハクがついてるらしいから。



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