今日からナイフ戦の実技が始まる。
授業といえど本物を扱うため、グループ分けは体術の成績上位者順にされた。
レベルが違えば即、ケガにつながる。
珍しく緊張した空気が流れていた。

そんな中で、私は一人落ち着いていた。
授業で使うナイフは軍の正規品で、私がラウとの訓練で使っていたものと同じ。
それに、体術よりもナイフ戦のほうがトクイだから。



あとから聞いた話だけど。
フレッド教官はこの日を、人生最大の汚点だった、と言った。
私が女だから、ではなくて。
自分が油断していたことを恥じる、と。
教官だったから死ななかっただけで、戦場にいたら間違いなく死んでいた、と。



「このクラスの体術トップは、・・・?」
「はい!」
フレッド教官はつま先から頭のてっぺんまで私を見る勢いだ。
「おいおい。こんなちまっこいのに、誰も勝てねェのかよ。」
“ちまっこい”の所で、ナスティがぷっと笑った。
イザークとディアッカにムシされた、あの話を思い出したに違いない。

「ナイフ戦は理屈じゃねェ。テメェの身体に覚えさせるモンだ。」
あ、それ納得。
言い方は違うけど、ラウもそんなこと言ってたっけな。

「おい。見本だ。・・・構えろ。」
「はい。」
何の助言も講義もなしに、突然の実技開始に辺りはざわめく。
私はパチンとナイフを弾くと、右側を後ろにそらして構えた。
ナイフを直接敵に見せないためだ。
どこから刃物がくるかわからない。これが、このナイフ戦に恐怖を与える。
私の小さい身体は、常に相手より低い位置から攻撃できる。
ナイフ戦ではそれを有利に使うことだ、とラウは言っていた。


私の構えにフレッド教官は怪訝な顔をした。
けれどすぐに「はじめろ。」と言う。
つまり、自分は防御するだけだから、攻めてみろってことらしい。
「じゃ、いきます。」

2歩で相手に詰め寄る。
3歩目と同時に、隠していたナイフを顔面にくり出す。
ガンっと重い音がして弾かれる。
でもこれは予想通り。
私のおとり。

弾かれたと同時に腰をかがめ、相手の視界から消える。
そのままの姿勢で後ろにすばやくまわりこみ、立ち上がると同時にナイフを首筋にあてがう。
私の姿勢に合わせ、腰をかがめていた教官の、無防備な首筋に。

「勝ちです、教官。」
歓声に沸くクラスメイトたち。
ゆっくりと顔をおこすと、その中で一人だけ、頭をかかえるアスランがいた。
あれ? 私、やっちゃった?


「オラオラ、そこだーーーーっ!」
ナイフ戦の訓練で、ナスティはニコルを相手に、
刃物だと思ってないんじゃないか?ってぐらいの勢いでナイフを振り回していた。

「僕はあまり趣味じゃないです。」
一方のニコルは防御オンリー。
むちゃくちゃに振り回しているかに見えるナスティのナイフ。
でも、実はとっても的を得てる。
それをきっちりナイフで返しているニコルも、ただ者じゃない。
すでにナスティは、ラスティとナイフを交えて、医務室送りにしていた。
姉弟の間に遠慮はない。

「くたばれアスランーーーーーっ!!!」
「うるさい。」
イザークとアスランもなかなかいい動き。
イザークってば、あんな声張りあげてたら、息が上がるぞ?

。手加減ヨロシク。」
ヘラヘラと片手を上げて、ディアッカが言う。
ふざけているようで、なかなかどうして、強いのだ。ディアッカも。
「できるかわかんなーい。」
ニタッと笑いながら言った私に、ディアッカは「ゲー。」と脱力した。


体術とナイフ戦。
普通の女の子でいきなりあの強さはありえないことだろうけど、
私の周りの仲間は自然と受け入れてくれていた。

何で異常に強いのか、とか。
以前に訓練を受けたのか、とか。
一度も聞かれずに、同期のとして扱ってくれた。
他人の能力に気を向けるより、自分の能力を高めることの方が大事だった。

それだけ私の仲間たちは、上を目指していたんだと思う。
その中にいられることも、私の誇りだった。



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