「お母さまの好きな、グラミス・キャッスルが綺麗に咲きましたよ! はい、どうぞ。」
「わぁ! ありがとう。」
銀の髪をさらりと揺らして、子供が差し出したバラの花。
それを私は椅子に座ったまま、ニッコリと受け取った。

「ずるいですよっ! お兄さま。僕のほうが先に差し上げようとしていたのに・・・。」
手に兄と同じ花を持った弟が、ふてくされている。
その黒い髪はまるで、怒りに染まっているように見えた。
「ありがとう、二人とも。とっても嬉しい。」

私はくすくすと笑いながら、となりに立つイザークに目をむける。
紫の軍服に身を包んだイザークは、あの頃と変わらない笑顔で私を見ていた。










〔 過去と違う未来 FINAL PHASE 〕










ジェネシスは、撃たれなかった。

キラとアスランの手によって、世界は最悪の結果を免れた。
その後、かつての悲劇の地、ユニウス・セブンで、平和のための条約が結ばれた。
そうして、戦争は終わった。

あれから10年がたち、プラントと地球は相互努力を怠らず、平和を維持している。
もう誰も、戦争なんて望まない。
あんな想いは、したくない。


。今日のドレスが届いたようだ。着てみてくれないか?」
エザリア様がにこやかに歩み寄る。

戦時中の最高評議会議員だったエザリア様は、戦後裁判で裁かれた。
それでも自宅に軟禁、というやわらかな判決に終わっていた。
最後は完全なパトリックおじさまの暴走だったということと、マティウス市における絶大な人気が、この結果につながった。
エザリア様が議員を退いたことで、イザークが次のマティウス市代表に選ばれたことからも、その人気がうかがえる。

?! お前その身体で出席する気か?!」
イザークが驚いて私を見た。
思ったとおりの反応に、私はつーんと顔をそむけた。

「そう言うと思ってたから黙ってたの。」
〜〜〜〜っっ!!」

イザークのかんしゃくもちは“紫”を着ているのに相変わらずだ。
よくもあれで国防委員長が務まるものだと、エザリア様がため息をついていたのはここだけの話。
きっと国防委員長補佐官のディアッカが、ものすごくフォローしているんだろう。


「ナスティもくるって言うんだもん。会いたいよ。」

ナスティは今、地球に住んでる。
戦争のあと、足つきで出会ったあの軍医さんのもとで働いて、今は産婦人科で忙しく働くお医者様になった。
トラウマを職業に変えたナスティは、本当に生き生きとしている。
医師免許一発クリアーは、さすが元ザフトレッドだ。

。まさかそのままナスティと地球へ行く気じゃないだろうなっ?!」
イザークが声を張りあげると、ゴチンっとエザリア様の鉄拳が飛んだ。

「声をあらげるな! このバカ息子!」
「は・・・母上・・・・。子供の前ですから・・・・。」
うらめしくエザリア様を見て、イザークが言う。
確かにこれでは父親の威厳もない。

「ともかく! 今日のアスランの議長就任パーティーは行くからね!」
私はそう宣言すると、話を終わりにした。



A級戦犯の息子、というレッテルを貼られて、それでもアスランは戦後の復興に持てる力を尽くした。
もともと真面目な性格ゆえに、各地でそれは高い評価を受け、プラントでもザラの名誉を回復させた。
ついにはディセンベルで議員に選出され、今回議長就任の運びとなっていた。

オーブからもカガリとキラがお祝いに駆けつけると聞いている。
アプリリウス代表のラクスも、イザークも、ディアッカも、当然出席する。
何かと忙しい昔なじみの仲間が、一同に会するのだ。
これを逃しては、次にいつ会えるのかわからない。


自室にはエザリア様が用意してくれたドレスがかかっていた。
試着してみると臨月のおなかをゆったりと包んでくれる、やわらかなドレスだった。
これなら長時間のパーティーでも、締めつけられることなく安心できる。
そしてドレスのデザインといったら、妊婦のものとは思えないかわいらしさで、さすがはエザリア様。

突然思い立って、私はクローゼットへ歩み寄った。
奥の方から目当ての物をひっぱり出して、ベッドの上に広げる。
それをボーっと眺めていると、部屋のドアが開いて、イザークが入ってきた。

「なんだ。懐かしい軍服だな。」
「うん。」

それは“赤”の軍服。
いつも私のそばにいて、私の大切な人たちも着ていた、“赤”の軍服だった。

はいつザフトを除隊する気なんだ? 今回もまた復帰する気か?」
イザークの言葉に、私は力強くうなずく。

戦争もなく、第一線を退いた私は、軍本部勤務という事務方の仕事しかできなかった。
それでも、除隊する気はなかった。

私はテラスから顔を出すと、イングリッシュガーデンを所狭しと走り回る子供たちを見下ろした。
「戦うためでなく、平和のために、ザフトにいるの。」
「―――そうか。」
私の答えを聞いたイザークは、大きなおなかを潰してしまわないように、優しく私を抱き寄せた。



私とイザークの、大切な宝物。

銀の髪に黒い目をした長兄、“ラスティ”。
黒の髪にアイスブルーの目をした次男、“ニコル”。

そして今、私のおなかの中にはまだ名前のない子供がいる。

今度こそ、護りたいと願う。


死んでいった仲間と、同じ名前を与えた、この子たちの未来を。





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