同じ“赤”でも、パイロットスーツは嫌いだ。
まるでこれを着ると、出撃していく気分になる。
自分が、人を殺す道具になる気がする。

だけど今は、それを止めるために、この“赤”を着る。










〔 過去と違う未来 PHASE:51 〕











ただ司令室には、私がたたくキーボードの音しかしていなかった。
自爆シークエンスが進む中で、私はまだヤキン内部に残っていた。
閉鎖された隔壁が、いつ爆風で吹き飛ぶかはわからない。
でも、最後の最後まであがいて止めようと、隣接する更衣室でパイロットスーツに着替えた。

画面をデータの羅列が流れていく。
その流れを止めようと、私は懸命にキーボードをたたき続けた。

アスランが試さなかったコードから停止を試してみても、すべてキャンセルされてしまう。
30分あったはずの時間は、焦りと共に早く、なくなっていく。

カウントダウンが止まらない。
ヤキンの自爆も進み、私が立つ場所にも振動が伝わってくる。


残り時間が600秒を切ると、突然画面がザッと乱れた。
「え・・・?」
せわしなく動かしていた指を止めると、目の前の画面は真っ黒になった。
司令室を見回すと、生きている画面ではカウントダウンが続いている。

おそるおそるキーボードをたたくが、何の反応もない。
これではもう、アクセスすらできない。
私はその場に、力なく座り込んでしまった。

私は・・・・、こんなにも無力だ・・・・!

そのとき近くで大きな爆発音がして、一段と大きな振動が襲ってきた。
そして我に返る。

脱出しないと、ここで死ぬ!


振動の余韻が続いて、不確かな足元を踏みしめると、私は司令室の外へ身体をむけた。
同時に扉が開いて、私と同じ赤のパイロットスーツが飛び出してきた。
その相手を確認すると、私は信じられない思いで抱きついた。

「イザーク!!」
「何をしているんだ! ばかものォっ!!」

感激の声に、イザークの罵声が重なって聞こえた。
小規模だった爆発も、大きなものへと変わっていく。

「話はあとだ! 脱出する!」
手を引かれ司令室を出ると、廊下はすでに吹き飛んでいた。

見慣れたデュエルの機体が、その隙間に割り込むようにたたずんでいた。
慣れた手つきでハッチを開き、先にイザークがコックピットに飛び込む。

「イザーク!」
、こいッ!!」

差し出される、イザークの手。
それはまるで、あのときと同じで―――・・・・。

私は大きくうなずくと、イザークの手の中をめがけた。




あの日から、何が変わったんだろう。
この戦争に、何か成果はあったんだろうか・・・・。

私たちコーディネーターは、たくさんのものを失って。
ナチュラルもまた、たくさんのものを失った。

私が得たもの。
私が失ったもの。
それはみんなと同じで、みんなとは違う。

けっきょく戦争が統一して人にもたらすものは、何もないんだ。


人は、生きる中でさまざまな知識を得る。
正しいこと。
間違ったこと。

判断をたがえれば、それで道が別れる。

その中に生まれてくる、認識。差別。
自分と同じもの。
自分と違うもの。

でも、生まれたばかりのまっさらな私の遺伝子は、知っていただろうか。

自分が、どんな道を進むのか。
自分が、どうやって生きるのか。

―――誰に愛されるのか。

否。

それを創る過程は、遺伝子ではない。
伝えられる能力はあっても、突起した才能があっても。

昨日と違う明日も、過去と違う未来も、決めるのは私だ!




一段と大きな爆発が起きて、目の前が光に包まれた。
デュエルごと爆風に吹き飛ばされながら、そのコックピットの中でイザークの手を握り締めた。
イザークの手が、瞳が、しっかりと私をつかまえていた。


つながれたこの手は、戦争の中で私が見つけた、ただひとつの幸せ。





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