のけ反っていくパトリックおじさまの身体。
無重力に流されていくその身体に、新たに二発の弾丸が撃ちこまれる。

あまりの衝撃に、背後に人が立ったことにすら、気がつかなかった。

「ち・・ち・・、うえ・・・・?」

聞きなれたアスランの声が、頭の中の遠い場所に聞こえた。










〔 過去と違う未来 PHASE:50 〕










司令室が静まり返ったあと、せきを切ったようにワッと言葉が飛び交った。
「・・・・・ぉ・・、おとう・・・・さま・・・・・っ!」

腕の中の父に、もう息はなかった。
血がべっとりと張り付いたその手に、拳銃を握り締めて、息絶えていた。

「議長が撃たれたぞ!」
「え・・?ラレール補佐官が・・・っ?!」
ざわざわと波紋が広がり、その声は恐怖となって人々に広がった。
誰かが出口へと駆け寄り、兵士たちは連鎖を起こして一斉に持ち場を放棄した。

そんな声も受け付けず、私はパトリックおじさまに近づくアスランを、呆然と見ていた。
肩に手を置かれ振り向くと、カガリがそこに立っていた。

「カガリ・・・・っ」

涙すら出ない私は、どこかおかしいのだろうか。
それともこの現実を、受け入れられないだけなのだろうか。


「何が・・、あったんだ? 。」
自分のことのように顔を歪めながら、カガリが聞く。
私は震える口で、必死に言葉をつないだ。

「おじさまが、ジェネシス・・・、地球へ・・っ・・止めっ・・・。止めるために、お父さま・・・。おじさまを・・・ッ」

最期の力をふりしぼり、お父さまはおじさまを撃った。
私はまた、見ているだけしかできなかったのだ。

苦しそうにうめき、言葉を漏らすおじさまの声が聞こえた。
アスランの腕に抱えられて、おじさまは懸命に何かを伝えようとしていた。

「うて・・・・ジェネシ・・・。我ら・・・・せかい・・・。うばっ・・・・・。むく・・・い・・・。」
言葉の力がだんだんと弱くなり、やがて事切れた。
「父上!」
アスランはこらえきれずに声をあげ、その身体を抱きしめた。
分かり合えることなく、決別したままで、彼らはこれが最後の別れとなった。



「ごめんなさい・・・アスラン。私・・・・、止められなかったッ」
静かに父を横たえて立ち上がり、うちひしがれるアスランに声をかけた。
アスランは、私と同じようにおじさまを横たえた。
父たちの遺体の横に、私たちは向かい合う。

「いいんだ、。・・・止められなかったのは、俺も同じだ。」
「でも私は!・・・最後まで、そばにいたのに・・・・!」
アスランの手が、私の肩に触れる。

「もういいんだ、。もう君は“”を背負わなくていいんだから。」
「アスラン・・・・。」

私の役割。
”の運命。
ザラの身代わり。

「君はもう、自由だ。」

―――アスラン!

私は、私で選べるの?
自分の生き方を、選んでもいいの?
それが私の、戦って、得たもの・・・・?


突然司令室がけたたましいアラート音に包まれた。
人工音声が、ヤキン・ドゥーエの自爆装置の作動を告げている。
「ヤキンが・・・。放棄されるのか?」
カガリが呆然と言葉を発すると、アスランは何か思い立ったようにモニターへ近づく。

アスランが開いたのは、ヤキン・ドゥーエの自爆シークエンスの詳細だった。
爆発の規模により、宙域に避難をうながさなければならない。
順調に作業を進めていたアスランの手が、驚愕した表情と共に止まった。

「どうした? アスラン。」
手元をのぞきこみながらカガリが聞くと、アスランが息をのみ、答えた。
「ヤキンの自爆シークエンスに、ジェネシスの発射が連動している・・・ッ!」
「「 えぇっ?! 」」
私とカガリは共に驚愕した顔を合わせた。

しばらくキーボードの上をせわしなく動いたアスランの手は、やがてそこにたたきつけられた。
ジェネシスの発射を外すことも、自爆シークエンス自体を止めることもできない。

「くそっ!・・・こんなことをしても、戻るものなど何もないのに・・・ッ!」
おじさまをいちべつすると、アスランは司令室を飛び出していく。

「アスラン?!」
カガリがあわててそのあとを追う。
アスランは一度だけ振り返り、ピシャリと言った。

「ジェネシスは俺が止める。お前たちは早く脱出しろ!」
止める間もなく姿を消したアスランに続いて、カガリがいなくなる。

ひとりきりになった司令室には、不気味にアラートだけが鳴り続いていた。





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