モビルスーツに乗りたいと思わなかった。
人の命を、ゲームのように奪うことになる自分が怖かった。
だけど今、この局面で、おじさまの後ろに控えるだけの自分に嫌気がする。
〔 過去と違う未来 PHASE:45 〕
ヤキン・ドゥーエの司令室で、モニターに映し出される戦況。
ついにプラントへむけて、地球軍が侵攻を始めた。
「ナチュラルどもの野蛮な核など、もうただの一発とて我らの頭上に落とさせてはならない!」
アプリリウスの司令本部では、エザリア様が出撃に備える兵士へ向け、演説をおこなっていた。
ボアズ陥落は、それを見た誰もが“ユニウス・セブンの悲劇”を思い出さずにいられなかった。
「ザフトの勇敢なる兵士たちよ!」
厳しい口調で雄弁に語るその姿は、嫌がおうにも闘志がかき立てられる。
ついに激突する両軍。
この攻防線が破られれば、プラントは丸腰だ。
「ジュール隊より入電。敵の編隊の中に、核ミサイル搭載機を確認!」
オペレーターの声に反応するかのように、モニターにその映像が映る。
地球軍のモビルアーマー・メビウスに運ばれる核ミサイル。
おびただしい数のメビウスが、プラント本体へむかっていた。
その中に身を投じていく、デュエル。
「――――イザーク・・・・・。」
私はキュッと、右手で左手を握りしめていた。
地球軍の新型の前に、メビウスにとりつけないジュール隊。
イザークも、黒い機体に進路を阻まれて、近づけないでいる。
彼のいらだちが、私にも伝わってくるようだった。
「くそ・・・・っ」
誰かがつぶやいた声が聞こえた。
私の意識が、吸い込まれるようにモニターの中に入っていく。
ついにメビウスからミサイルが発射され、それらはまっすぐプラント本体へ伸びる。
プラントが・・・・・・!
脳裏に“ユニウス・セブン”と“ボアズ”の、無残な最期の姿が浮かび上がる。
先頭のミサイルが、まさにプラント本体に迫ったとき、蒼白い光でモニターが埋めつくされた。
なにが起こったのかわからず、懸命に目を凝らす。
その光の中に、残存の核ミサイルをなおも撃つべく身をひるがえす二つの機体。
巨大な強化武装パーツを装着したその機体は―――。
「・・・・・キラ。アスラン。」
「フリーダムに、ジャスティス?!」
その機体を駆るパイロットの名を呼んだ私の声は、おじさまの驚愕した声にかき消された。
「地球軍は、ただちに攻撃を中止してください!」
突如として流れ込んできた凛とするその声には、聞き覚えがあった。
モニターには新たに、三隻の戦艦が映し出される。
司令室はいっそうざわつき、落ち着かなくなる。
「あなたがたは何を討とうとしているのか、本当におわかりですか?」
凛とした声は、地球軍の行為を糾弾する。
彼女の言葉に、よりいっそう混乱した様子を見せるザフト兵。
その声の主は、ラクス・クライン。
いまやNジャマーキャンセラーのデータを地球軍に売り渡したとして、その身を追われる彼女本人だ。
それをまったくのぬれぎぬと知る者は、ザフトにはいなかった。
「ふん! こざかしいマネを。」
おじさまはラクスの行為を一蹴した。
「部隊をさがらせろエザリア! 我らの真の力、今こそ見せてくれるわ!」
戦況を映し出していたモニターに、ジェネシスのデータが表示される。
展開されていたミラージュコロイドが解除され、その姿がフェイズシフト装甲に彩られる。
たんたんと進められていく、ジェネシスの発射シークエンス。
「全システム接続オールグリーン。」
オペレーターの声に我に返ると、次におじさまの声が響いた。
「思い知るがいい、ナチュラルども!」
その言葉に、嫌な予感が身体中を駆け巡る。
「この一撃が、我らコーディネーターの創世の光とならんことを!」
「だめです、おじさまっ!」
「発射!」
私の声とおじさまの声がかぶり、モニターには巨大な光の渦がはじき出された。
白い光に照らされた敵艦隊が、次々に爆散していく。
その光景に、私は両手を握りしめた。
――――こんなのは、同じだ。
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