宇宙要塞“ボアズ”。
プラントの全面に置かれた防衛拠点が、この“ボアズ”と“ヤキン・ドゥーエ”。
二ヶ所の防衛ラインを抜かれてしまえば、プラントまでさえぎるものは何もない。
それだけに、この二ヶ所には並々ならぬ戦力が配備されていた。
――――それなのに。
目の前のスクリーンは、その“ボアズ”の無残なまでの残骸を映し出していた。
〔 過去と違う未来 PHASE:44 〕
今また目の前に映し出されたのは、核の光。
凄然とそびえていたはずの要塞は、かつての姿のカケラすら残していなかった。
「おのれ、ナチュラルども・・・!」
ギリギリと歯を食いしばり、やっと絞り出したおじさまの声。
同じだ。
ユニウス・セブンのときと、まるで同じだ。
「議長閣下・・・!」
動揺の色を隠せずに、エザリア様が声をかける。
「ただちに防衛線を張れ! 残存部隊は“ヤキン・ドゥーエ”に集結させろ!」
けれどおじさまは感傷に打ちひしがれるでもなく、指示を飛ばした。
せっかく、話せると思ったのに。
おじさまやお父さまと向き合って、争いのない道を選ぼうと、訴えかけることができると思ったのに。
その矢先に、またもや放たれた核の光。
“ボアズ”を焼き尽くしたその光が、おじさまの心までもを焼いてしまったかのようで、私は身体が震えた。
「クルーゼ!」
「は!」
「“ヤキン・ドゥーエ”にあがる!―――“ジェネシス”を使うぞ。」
その言葉に、エザリア様が身を固くしたことが知れた。
“ジェネシス”――――?
悪寒のように走るその衝撃に振り返ると、その先にただひとり、微笑を浮かべたラウがいた。
「おのれアスラン〜〜〜・・・。」
アプリリウスからヤキン・ドゥーエへ渡るシャトルに乗って、おじさまはひとりつぶやいた。
さっきラウが“不安要素”だと言っていたことに思い当たり、私は反論した。
おじさまの頭の中ではすでに、データを地球軍に渡した犯人はアスランになってしまっている。
そんな悲しい誤解だけは、生みたくなくて。
「アスランじゃありませんっ! 平和を願って軍を飛び出したアスランは、そんなことしない!」
シャトルの中に、おじさまとお父さまと三人だけだったことも幸いして、私は言った。
ヴェサリウスが撃墜された戦闘で、足つきと、その同型艦の地球軍が戦闘をおこなったという。
このことは、イザークから聞いていた。
けれど、ザフト側にその報告がされていなかった。
単独で追撃を振り切ったと思われているエターナルの今後は、地球軍との接触が危惧されていたのだ。
巧妙に隠された真実。
ラウが何の目的で報告を削除したのかは知らないけど、
ラクスとアスランを、ただ裏切り者としてまつりあげようとしているのは間違いない。
そして、パトリックおじさまの怒りのすべてを二人に絡ませて、ナチュラルへ向けさせているのも、ラウ。
そんなことに何の意味があるのかは知らない。
でも、アスランの名誉だけは守りたかった。
「同じです、おじさまもアスランも。レノアおばさまを失ったことで、もうこんな苦しい思いをしたくなくて・・・。
プラントを、護りたくて・・・!
彼らは、私たちとは別の方法で戦いを終らせたいと――――!」
「。」
肩をたたかれ顔をあげると、お父さまが静かに首を振った。
それの意味するところにたどりついて、涙がこぼれる。
おじさまにとって、プラントにいない者はすべて、敵なのだ。
たとえ同じコーディネーターであっても、自分の息子であっても。
データを流した犯人なんて、誰でもいい。
ナチュラルをすべて滅ぼせば、終わるのだから――――と。
止められない。
おじさまの憎悪は、それほどまでに深かった。
最愛の妻と、息子。
二人をナチュラルに奪われた思いで。
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【あとがき】
親子の情が薄い書かれ方をしているパトリック親子ですが、
ライナはあの写真が、パトリックの愛情を物語っていると信じています。
絶対に、愛してた。
アスランも、レノアも。