「銃をむけずに話をしよう。・・・・・イザーク。」
幼少の頃から見慣れている、斜に構えた彼の顔。
生きていてほしいとは願ったが、本当に生きているとは思えなかった。
それほどまで長くわからなかった消息。
そのディアッカをモニターに確認しながらも、イザークは震える拳をレバーから離せずにいた。
〔 過去と違う未来 PHASE:41 〕
ヴェサリウスが落とされ、クルーゼ隊は撤退を余儀なくされた。
イザークの心の中には、迷い、戸惑い、怒り・・・・。
どれをどうと表現したらいいのかわからない感情が渦巻いていた。
プラントを裏切った、ディアッカ、アスラン、ナスティ。
アカデミー時代から苦楽を共にしてきた仲間が、この戦争を否定してザフトに銃をむけた。
ナチュラルを全滅させるのは間違っている。
それはイザークとて考えていたことだ。
パナマで私欲の限りにナチュラルを虐殺する同胞の姿には、嫌気がさした。
ディアッカから伝えられた言葉には、確かに共感できる部分すらある。
アラスカで突然現れて、結果自分の命を救ったフリーダムがそこにいたのも、当然だと思った。
だが、自分がそこにいけるかと問われれば、それは別問題だった。
軍の目指す先は、ナチュラルの全滅なのかもしれない。
それをいやだと言って軍を去れば、誰がプラントを護れる?
どこに所属していようが、プラントを護ることがイザークの意思であり決意だ。
それは譲れないのだ。
プラントへ戻ったイザークには、転属命令が出ていた。
長年親しんだクルーゼ隊を離れることには、哀愁の思いを感じた。
配属されてきた当時から、この隊に残っていたのはイザークひとり。
そして乗艦してきた“ガモフ”も“ヴェサリウス”もいまは、宇宙の塵と消えた。
昔のイザークであれば、わめき、八つ当たりすることで収めてきた感情。
だが今は、そんなことすら起こす気になれないでいた。
MIAに認定されていたディアッカと、ナスティの消息はつかめた。
喜ばしい結果ではなかったが、二人は生きていた。
――――が――――。
「は・・・・・いないのか・・・・・・?」
ディアッカの口から、ついに語られることのなかったの消息。
イザークは探しに出て行ってしまいそうになる自分を、必死に抑えてここまできた。
戦場にいる間は、それにまぎれて忘れようとしていた。
だから今日の転属前の休暇は、余計なものでしかなかった。
一日中の心配をしているなんて、気が狂いそうだ。
思い気持ちに家の扉を開けると、場違いなように大きなクラッカーの音が鳴った。
「あぁ?! 何のマネだ、これはあぁぁぁあっっ!!」
ぐるりと自分を取り囲む使用人たちへ、さっきまでの無気力はどこへやら、のイザークが叫んだ。
「うっそー、喜んでよイザーク。隊長就任おめでとう!」
パンっとまたひとつクラッカーを鳴らして、私はイザークに近づいた。
今回の転属で軍司令本部に配属になり、隊長に任命されたイザーク。
ザラ隊を結成していたときのアスランへの闘争心から、今回の就任には絶対浮き足立って帰ってくるものだと思ってたのに。
だからこうして、ジュール家のみなさんにも協力してもらってお出迎えしたのに。
・・・・・不発。
「―――?」
イザークの声が震えていた。
声を震わせるほど怒られるのかと思うと、さすがにそれは悲しかった。
せっかく合わせて休暇をもらえたのだから、仲良く過ごしたかった。
「はい! ごめんなさい!」
てっとり早く謝った私に、近づいてくるイザーク。
何を言われるのかと身体を小さくしていたら、急にきつく抱きしめられる。
「お前・・・・生きて・・・・?!」
そのとき初めて理解した。
イザークは今、初めて私の生存を知ったのだ、と。
「ごめん、イザーク。・・・・ただいま。」
抱きしめられたままで、さっきとは別のことを謝る。
一瞬また、抱きしめる腕に力がこもったと思ったら・・・。
「生きていたならなぜ早く知らせないんだ、ばかものおぉぉぉっっ!!」
イザークの大声が頭から降ってきて、同時にゴンッと鈍い音がした。
イザークの腕の力が弱まったのでそろそろと身体を離すと、イザークの横にエザリア様が立っていた。
拳をグーの手にして。
「もっと優しく接しろ、このバカ息子! は連合の捕虜にされていたんだぞ?!」
エザリア様の言葉に、私を見るイザーク。
そんなことが、と、みるみる曇るイザークの顔。
私は心配をかけまいと、今出来る精一杯の作り笑いを返した。
「パトリックもラレールも、国防委員会に詰めているからな。家に帰ったところで、が淋しい思いをするだけだ。」
エザリア様の一言で、私のジュール邸ご宿泊が決定。
私の荷物をイザークの部屋へ運ばせたエザリア様は、満足そうにアプリリウスへ帰っていった。
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【あとがき】
ジュール隊ばんざい。
エザリア様ばんざい。