「うおぉぉぉおおっっ!!」
アスランが、身体ひとつでパトリックおじさまに向かって突っ込んだ。
私にむけられていた銃口が、アスランにむけられた。










〔 過去と違う未来 PHASE:40 〕











「おじさまっ!」
一発の銃声。
吹き飛ばされるアスランの身体。
「い・・・いやあっっっ!」

同時に部屋に飛びこんできた兵士の先頭には、お父さま。
私と同じように、唖然としてその光景を見ていた。
兵士たちの銃口は、一斉にアスランへむけられていた。

吹き飛ばされたアスランは、血の流れる肩をかばいながら、かろうじて身体を起こす。
その足元に、アスランが突っ込んだ衝撃で机の上から落ちて砕けたガラスが散らばっていた。
私はおじさまの手を振り払い、アスランを抱き起こす。

「連れて行け! ジャスティスとフリーダムの所在を吐かせるのだ! 多少手荒でも構わん!」
おじさまの声にすばやく反応した兵士たちが、私からアスランを引き離す。

「パトリック。」
父のとがめる声にも答えず、おじさまはアスランに言い放つ。
「見損なったぞ、アスラン。」

連行されていく足を止めて、アスランが肩越しに言葉を返した。
「・・・・俺もです。」


アスランが連れ出されたあとで、足元に散らばっているガラスに気づいた。
見覚えのあるそれを、かがみこんで確かめる。

どうして・・・・ここに・・・・?

意外、という言葉以外、他になかった。
それは写真立てだった。
飾られているのは、母たちから最後に送られてきた幸せに笑う二つの家族。
アスランと、私と、その両親。

さらに意外なことに、私のとなりにかがみこんでその破片を拾い集めたのは、パトリックおじさまだった。
「おじさま。・・・・どうして?」

見殺しにしたじゃない。
核が撃たれるのを、知っていて撃たせたじゃない。
なのにどうして、これがここにあるの?
おじさまがなぜ、この破片を拾うの?

私に答える、というより、おじさまは独り言のようにつぶやいた。
「レノアを殺した敵が、まだのうのうと生きているというのに・・・。あのバカ息子は、そんなことすら忘れたのか・・・。」
「おじさま・・・。・・・・お父さま?」
同じようにしてガラスの破片を拾い集める父の姿は、私に長い間の誤解を物語っていた。

―――見殺し、ではなかったのだ。
父も、おじさまも、ちゃんと母たちを愛していた。
そして、憎しみのみを心に刻んで、こうして戦いを拡大させ、世界を飲みこもうとしている。
それでしか、自分たちの想いの救われる道がないのだと、納得し、選んだ道。

「そんな・・・・。アスラン。」
扉の先に目をむけても、そこにアスランの姿はない。
誤解し、その結果この道を選んだ理由もわからず、決別した二人。
二人とも、なんて不器用なんだろう。
なんで・・・・、すれ違ってしまったのだろう。

同じ想い。
けれど、目指す先に見る未来は別のもの。

アスランとおじさまは、まるで在りし日のキラとアスランだ。
キラとアスランの二人が分かり合えたように、アスランとおじさまが再び親子に戻れる日は、来るんだろうか・・・・?


すべての破片を拾い集め、写真立てが元の姿を取り戻したとき、執務室に伝えられた情報。
新造艦エターナルの、クライン派による強奪。
そして、アスランの脱走。
加担していたバルトフェルド隊長に、ラクス・クラインの亡命。

パトリックおじさまは、今度こそ本気で机をたたきつけた。
「あの・・・・バカ息子・・・・ッ」



!」
「エザリア様?!」
「あぁ! 本当に心配したのだぞ? 身体に異常はないか?」
事情聴取のあと、与えられていた部屋にいたところへ飛び込んできたのはエザリア様。
イザークと同じ顔のエザリア様に抱きしめられて、慌てないはずがない。

「地球軍の捕虜にされていたなんて・・・。同じ場所にいながら何をしていたのだ、イザークは!」
アスランが、自分と引き換えについたウソを、私も貫いた。
本当のことを話すことで、逆に私がアスランたちの足かせになってしまうことを恐れた。
さっきのパトリックおじさまの様子から考えると、私が真実を知っていることは、よい方向に向かわないと判断した。
アスランを乗せたエターナルは、無事にヤキンの部隊を振り切ったという。

「イザークは今、エターナル追撃の任にあたっている。戻ればゆっくり話もできよう?」
国防委員会直属、パトリック・ザラ専任護衛。
それが私の配属先だった。
目をかけたバルトフェルド隊長に裏切られ、アスランと決別し、人を信じることのできなくなったおじさまの決定だった。

私は私に、今できることをする。
そのために私は、ここに残ると決めた。

ナチュラルを滅ぼすためでなく、プラントを護るために。

目指す未来を見間違えてしまった、パトリックおじさまを止めるために。





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【あとがき】
 今頃メンデルでは連合、ザフト、三隻同盟の三つ巴です。
 ちゃんはナタルさんにも会ったことがないという有様。
 しょうがない、ザフト寄りだから。
 次回、やっとやっと、イザークと再会の予定です。