『 わたくしたちは、何処へいきたかったのでしょうか?
何が欲しかったのでしょうか?
―――戦場で、今日も愛する人たちが死んでいきます・・・・。
わたくしたちは一体いつまで、
こんな悲しみの中で過ごさなくてはならないのでしょうか・・・・? 』
ラクスの声が、想いが、プラント中に響く。
〔 過去と違う未来 PHASE:39 〕
戦争は、勝って終わらねば意味がない。
パトリックおじさまの言う、勝利とはなんだろう。
それがとても理不尽なものであるならば、止められるのは誰だろうか。
宇宙へあがった私とアスランは、ジャスティスを足つきに残してダークフレームでプラントへむかった。
戦争の行く末を担う、現最高評議会議長、パトリック・ザラに会うために。
ヤキン・ドゥーエに着くなり、ジャスティスを失っていたアスランは連行。
MIAに認定されていた私も、事情聴取のため、やはりアプリリウスへ送られた。
国防委員長の執務室へ連れられていくアスラン。
そのむこうに、アスランの肉親がいる。
「アスラン!」
その身を案じて名を呼ぶと、振り向きもせずにアスランが言った。
「―――大丈夫だ。」
吸い込まれるように消える姿。
言葉の力強さとアスランのその姿にギャップを感じて、たまらなく不安を覚える。
「・はこっちだ。」
通された簡素な部屋の中で、私は床に座りこんだ。
椅子に座るほど、落ちついてはいられなかった。
部屋のドアが開く。
はっとして顔をあげるとそこには、慈愛に満ちた父の顔があった。
「おとう・・さま・・・・。」
「。・・・・良くぞ、無事で・・・・。」
抱きしめられて、父のぬくもりを覚えて、父を不審に思っていた気持ちが薄らいでいく。
アスランたちも、こうであったらいいのに・・・・。
執務室の中で、アスランはパトリックと対じした。
同行してきた兵は退出し、親子二人で向かい合う。
「どういうことだ? 何があった! ジャスティスは?!・・フリーダムはどうした?!」
取り乱しているパトリックに、アスランは息子として質問する。
「父上は、この戦争のこと・・・本当はどうお考えなのですか?」
自分の質問とまったく関係ないことを口にされ、パトリックは困惑した。
「俺たちは一体いつまで、戦い続けなければならないんですか?」
「―――そんなことより、命じられた任務をどうしたのだ?! 報告をしろ!」
声を荒げるパトリックにも、アスランは淡々と問い続けた。
これが最後のチャンスだと、わかっていた。
「力と力でただぶつかりあって、それで本当にこの戦争が終わると―――父上は本気でお考えなのですか?!」
力と力で、ただぶつかりあっていた。
その結果が、アスランとキラだ。
自分たちはその愚かさを、身をもって知った。
ならば・・・・父も・・・・。
「終わるさ! ナチュラルどもがすべて滅びれば、戦争は終わる!」
アスランが父に寄せた期待は、その一言に砕かれた。
父は本気で、ナチュラルの滅亡を望んでいたのだ。
そしてザフトは、トップの考えに統括される。
と・・・・いうことは・・・・。
今、目の前にいる父は、“ジャスティスを失っていること”に怒り、肩を震わせている。
アスランがここに通されたのも、ただ自分が“ジャスティスのパイロット”であるからでしかない。
息子だからと、事情があるなら汲んでやろうと、呼ばれたわけではないのか・・・・。
「本気で・・おっしゃってるんですか・・・? ナチュラルを、すべて、・・・滅ぼすと・・・・。」
「これはそのための戦争だ!」
アスランは身体中の力が、一瞬にして無くなっていく感覚におちいった。
護るため。
プラントを護るために、戦っていた自分。
ユニウス・セブンを見て、母たちを失って・・・・。
もう二度とこんな思いはしたくなくて、戦うことを決意した自分。
初めから、異なる道を進んでいたことに、気づきもしなかった。
「我らはそのために戦っているのだぞ! それすら忘れたかっ、お前は!」
父にその身体を突き飛ばされて、アスランは床に倒れた。
そのために・・・戦っている?
ナチュラルをすべて滅ぼすために、戦っている?
それを“忘れた”というのか・・・・?
忘れたんじゃない、知らなかった。
自分がこうして力を得たのは、決してナチュラルの全滅を望んだからではない。
失望感に立ち上がることすらできないアスラン。
ゆっくり視線をあげると、外部に通信をつなぐパトリックが見えた。
何かをわめいているように見えるが、聞こえない。
扉が開き、誰かが入室してくる。
目の前では父が、息子の自分に銃口をむけていた。
アスランはそれを、どこか遠くから見ていた。
中に入ると、アスランが床に倒れていた。
おじさまの手に握られている物に、その光景に、身体が震えた。
「やめてください、おじさま!・・・アスラン?!」
その人の立場も忘れ、私は敬礼ひとつせずにパトリックおじさまに飛びついた。
「言え、アスラン。答えぬと言うのなら、を殺す・・・!」
―――え・・・・・?
パトリックおじさまのところまで駆け寄っていた私は、その腕をとられ、銃口を頭に突きつけられた。
「おじさま・・・?」
「!」
何が起きているのかが、まったくわからない。
でも、アスランが言った“大丈夫”なんかでない状況なのは確かだ。
「・・・それとも。お前、ジャスティスの在処を知っているのか?」
おじさまの目が、私を見た。
目をギラつかせ、銃を向けたままのその人に、答えてはいけないと思った。
「は知りません!」
力なく床に倒れこんでいたアスランが、立ち上がり叫んだ。
「“ジャスティス”は、最も信頼できる者に託しました。は、地球軍に拘束されていたのを、私が助けました!」
「アスラン・・・・。」
「彼女は無関係です。何も知りませんっ!」
アスランの強い言葉が、おじさまにでなく、私にむけられていると悟る。
その気持ちを無駄にしたくなくて、私は黙ってうなずいた。
「ならば答えろ、アスラン! ジャスティスとフリーダムは?!」
再度突きつけられる銃口。
怖いと思うよりも、悲しくて仕方なかった。
アスランと、パトリックおじさまの、二人の姿が。
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【あとがき】
ちょっと王子様なアスラン。
彼はどんな状況でも「大丈夫だ」って言いそう。