「だけかよ?! オレたちゃ無視かよ!」
ナスティの言葉に、どっと笑いがおきる。
「キラ。頼むからイザークに会っても『助けた』とか言うなよ?」
ディアッカがキラに告げると、言われたキラは不思議そうに首をかしげる。
ゴメンね、キラ。
少々性格に難アリ、なのよ。私の婚約者。
〔 過去と違う未来 PHASE:38 〕
「ねぇ、アスラン。このままじゃプラントと地球はお互い、本当に滅ぼしあうしかなくなるよ・・・・。」
アスランに抱きしめられたままで私が言うと、アスランはその身体をこわばらせた。
さっきまでの空気とは、まるで違うものが押し寄せる。
軍という組織の中に属して、命令のままに敵を討てば、その先にあるのは“無”。
ナチュラルの全滅。
コーディネーターの全滅。
そのための、戦争。
「だから僕は、“それ”と戦うんだ。」
正面からまっすぐ見るキラの瞳に、アスランは何も言葉を返せずにいた。
「ありがとう、アスラン。話せて嬉しかった。」
笑顔で告げて、キラはフリーダムへときびすを返した。
アスランはまた、その場に座りこむ。
じれたように前髪をくしゃくしゃっと押しやり、考えこむアスラン。
そんなアスランに、ミリアリアがスッと近づいた。
「ミリ・・・。」
止めようと伸ばした手を、あわてて引き戻した。
私なんかが、何かを言える立場じゃない。
「オーブは、私たちの国なの。・・・あなたも、護ってくれてありがとう。」
「え?・・・あ、いや・・・・・。」
ミリアリアはそのまま、アスランの返事も聞かずにドッグの外へ飛び出していく。
「おい、待てよ!」
ディアッカがミリアリアのあとを追いかけた。
あっけにとられているアスランに、私は今度こそ言葉をかけた。
「・・・彼女ね、彼氏が殺されてるの。・・・・討ったのは、イージス。」
「?!」
今のアスランに、私が言えたことではないかもしれない。
けど。
トールを殺されたことに口をつぐみ、国を護ってくれた礼だけを述べたミリアリア。
そのけなげさは、誰かが伝えなければいけないと思った。
言わなければ、きっとアスランは気づかない。
「俺?・・・が?」
答える代わりに笑顔を返す。
私に代わって、ナスティがアスランに言った。
「お前、ザフトだろ? あの子の彼氏は連合軍。だから、敵なんだろ?」
アスランの前にしゃがみこみ、目線を合わせるナスティ。
「でもさ、人が人として生きるために、必要なのかね? そんなモノ。」
ナスティの言葉に、アスランはしばらくそこを動けなかった。
連合によるオーブ侵攻が再開された。
戻ってきたディアッカと、ザフトの赤いパイロットスーツを着た私たち四人だけが、取り残された。
「アスラン? どーすんの? お前、あれの奪還命令受けてんだろ?」
ディアッカの言葉に、アスランは苦々しくドッグの外を見やった。
キラのフリーダムは、すでに戦場へ飛び立ったあとだ。
「なぁ、マズイのか? やっぱり。オレたちザフトが介入しちゃあ。」
うかがうように発せられたナスティの言葉に、アスランは気づく様子もなく。
“ジャスティス”という新しい機体を見上げると、ついにその胸のうちを打ち明けた。
「だが・・・俺、は。・・・俺は、あいつらを死なせたくない・・・!」
アスランの言葉に、顔を見合わせてしてやったり、とほくそ笑むナスティとディアッカ。
こんな状況においてもまぁ、なんとも頼もしい限りだ。
「よォし! めずらしく意見統一だな?」
「あ、俺なんて初めて?」
楽しそうに声をあげる二人に、あっけにとられるアスラン。
「え? そんな簡単に?!」
アスランの言葉をそれ以上聞かず、愛機に搭乗していく二人。
私はアスランの背中をぽん、とたたいた。
「急ごう、アスラン。・・・オーブ、護ってあげようね。」
「・・・・・・・、お前・・・・。」
アスランに、恨み言ひとつ言わなかったミリアリア。
あなたの想いを、私たちが受けとめた。
アスランの顔から、迷いが消えた。
キラのフリーダムが舞う。
まるで昔から共に戦っていたかのように、アスランのジャスティスが重なる。
ギチギチと絡み合っていた糸は、ゆっくりと、確実に、元の姿を取り戻す。
「よかったね。・・・キラ。アスラン。」
キラは言った。
もう、連合にもプラントにも組しない、と。
そして私たちも、ザフトにいては戦争が終わる日はこないと悟った。
ナスティも、ディアッカも、アスランもいる。
自分ひとりでは導けなかった道が、ここにいればたどれるのだと思った。
同時に。
私の脳裏に浮かぶのは、今もなおザフトに残るイザーク。
アラスカで別れたきり連絡の途絶えた私を、死んだと思っているであろう、イザーク。
イザークが思っていないとしても、MIAに認定されていることに間違いない。
このまま足つきと行動を共にすれば、いずれ再会する。
敵として。
それ以前に私には、やり残してしまっていることがあった。
それをやり遂げる覚悟を、もう決めなくてはならない。
マスドライバー、カグヤから打ち上げられる足つき。
その格納庫の中で、オノゴロが炎上する様を見た。
ザフト式の敬礼をしても、オーブは許してくれるだろう。
その心を持ってさえすれば、その人が何人であろうと、認めてくれた国だから。
オーブが失われても、私の心に残るものは揺るがない。
否定しよう。
私の遺伝子を。
ザラ家の身代わりであれと生まれた、私を。
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【あとがき】
えーと、『カガリとキラは双子だった!』とか、『おとうさまぁぁぁっ!』とか、
完全にスルーです。スイマセン。
原作沿いでも、ヒロインのための種なので・・・。(言い訳。文才がないだけ。)