ディアッカはニヤニヤと笑っていた。
ナスティがその顔をジッと見つめた。
〔 過去と違う未来 PHASE:36 〕
「お前はただ捕まってただけじゃねーか。何に恩を返すんだよ。」
皮肉めいたその言葉にも、ディアッカは相変わらずで。
「どうする? やる? やらない?」
「おもしれー。・・・・のった!」
決断したナスティまで、にやっと笑った。
まるでそれは、アカデミーにいた頃と変わりない光景。
同じ空間に、ニコルとラスティがいるように感じた。
おそらくこの四人を中心におこなわれていた、くだらない賭け事。
日常を楽しむ姿が、今も変わらずここにある。
どこにいても、私たちは同じだ。
「? どうする?」
否定はないだろう? を前提に、ナスティが聞いてきた。
私は、ナスティとディアッカの顔を交互に見る。
二人の後ろに、やっぱりニコルとラスティがいるような気がして、私は笑った。
「やる。私、オーブに来なければ知らなかったことが、たくさんあったの。」
だから私も、オーブを護る。
「ここにいたの? 。マードックさんが呼んでるよ。の機体、整備終わってるって。」
キラが医務室に入ってきた。
「僕、これからモルゲンレーテに行かなくちゃならないから、ここでお別れだね。」
キラはすっかり私たちがザフトへ帰るもの、と解釈している。
「グゥーレイト! モルゲンレーテ! キラ、俺も連れてってくれ。」
ディアッカが嬉しそうに言った。
そういえば、久しぶりに聞いたな。ディアッカの『グレイト』。
「え? なんで?」
困惑したキラが、ディアッカに聞く。
「俺のバスター、返してもらうんだよ。・・・・オーブを護るために。」
ディアッカの答えを聞いて、キラの顔はますます困惑した。
「どういう・・・・こと・・・?」
おそるおそる聞き返してくるキラに、私とナスティが答えた。
「「 そういうこと。 」」
「戻ってきたのなら、お返しした方がいいと思って。」
キラについて行った先のモルゲンレーテ。
エリカさんに案内された先には、ストライクがあった。
「改修の際にあなたのOSを載せてあるけど。・・・その、今度は別の人が乗るのかな?
って思って。」
「例の、ナチュラル用の?」
ムウさんの問いに、エリカさんがうなずく。
キラのOSを載せても、キラにしか扱えない。
キラが死んだと判断されたのだから、当然の処置だった。
今、生きてキラがここにいることで、エリカさんは言い難そうに言葉を濁した。
実際キラにはもうフリーダムがあるし、別の人が乗ることになるのは間違いない。
「なら私が乗る!・・あ、もちろんそっちが良ければ、の話だけど。」
一番に名乗りをあげたのはカガリ。
連合がオーブに攻めてくるとわかった時は多少取り乱したりもしてたけど、今は心を決めたようだった。
凛として背筋を正している彼女は、まぎれもなく指導者の顔つきをしていた。
「いいや、だめだ。」
そんなカガリの意見を、真っ向から拒否した男がいた。
ムウ・ラ・フラガ。
やはり“エンデュミオンの鷹”だった、彼。
「俺が乗る。」
「少佐・・・?!」
戸惑う足つきの艦長マリュー・ラミアスに、少しおどけた顔をつくる。
「じゃあ、ないんじゃない? もう。・・・マリューさん。」
連合にはザフトと違って階級がある。
階級で呼びかけた彼女に対して、名前で呼びかけた彼。
これから先の戦いは、誰かに命令されたものでなく、自分の意思なのだと、彼も暗に示していた。
『 命令は、必ずしも正論じゃないんだよ。 』
よみがえる、かつての上司の声。
やっとわかりました、バルトフェルド隊長。
死んだと思われていたあの戦いから、奇跡的に一命をとりとめた人。
まだ意識は戻らず、その肉体も元には戻らないと聞いた。
あの人は、あんなに前から見えていたというのか。
プラントが選ぶ未来。
地球軍が選ぶ未来。
どちらも相手を滅ぼすまで、戦い続けると望んでいたことを。
モビルスーツの格闘場に、フリーダム、ストライク、バスター、ダークフレームセカンドが立ち並んだ。
ダークフレームセカンドはその名の通り、私の機体の継承機。
頭部には修復されたブリッツの機体がはめ込まれていた。
ダークフレームが中距離戦闘を得意とするのに対し、セカンドは近距離を得意とする。
その理由は、ガーベラストレートを装備しているからだった。
「ジャンク屋が、レッドフレーム用のものを置いていったのよ。」
ひょうひょうと言ったエリカさんは、もうコーディネーターであることを隠してはいなかった。
「どうやって生きても、私は私よね。」
エリカさんの言葉に、私はうなずく。
「私がどんな人間でも、息子はママって呼んでくれる。あの子の母親であること以外、私は何者でもないの。」
またひとつ、私より先に答えを導き出している彼女を、とても強い人だと思った。
フリーダムにキラが、ストライクにムウさんが、バスターにディアッカが乗りこむ。
「ナスティ、無理しないでね!」
「おう! まかせとけ。」
私が声をかけると、ナスティは力強く答えて、ダークフレームセカンドへ乗りこんでいった。
「いきなり僕との模擬戦は、いくらなんでも早すぎると思いますけど・・・。」
「うるせぇ! ナマイキ言うんじゃないよ。いくぞ!」
モビルアーマーからモビルスーツに乗り換えて、しかもスペシャル機の火力を振り回すムウさんは、ただものじゃない。
いくらOSがナチュラル用に設定されているとはいっても、彼の技術の高さゆえだろう。
そして。
「なんか。・・・懐かしいっつーの?」
「オレに負けたらディアッカ、“赤”脱ぐか?」
「やだね。・・・つーか、負けないし?」
「おら、いくぜ! ディアッカ!」
ぶつかり合う、二つの機体。
本当にそれは、アカデミー時代のシュミレーションと同じで。
あの頃はただ、楽しかった。
仲間の誰かを失うなんて、思ってもいなかった。
戦場に出て知ったことは、あまりにも理不尽な現実。
心のない世界。
アカデミーにいた頃の、あの無垢な時間を取り戻したい。
まだ、間に合うのなら・・・・・。
「いっけーーー! ナスティ!」
声援をおくる私に答えるように、ナスティのガーベラストレートがバスターを脅かす。
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【あとがき】
ごめんなさい、原作沿いなのに一部順番が違っています。
バスターは遠距離、セカンドは近距離。
・・・シュミレーションになるのか?・・・・については、スルーでお願いします。