格納庫に足つきのクルー全員が集合していた。
私は一人、事態を見守るように少し離れて様子をうかがっていた。
〔 過去と違う未来 PHASE:34 〕
足つきの艦長だったマリュー・ラミアスが、クルーにむかって頭を下げている。
ざわめきがいっそう大きくなり、やがてクルーはそれぞれに散っていった。
足つきはついに、連合軍に組することを正式に放棄した。
もとより原隊に合流しても、銃殺刑が確定していたようなものだ。
彼らは、全員が知りすぎた。
JOSH−Aの真実。
くり返された、エンデュミオン・クレーターの悲劇。
またもや連合によるサイクロプスの使用は、報道においても伏せられていた。
地球に生きる者たちは、いつもその真実を知らされない。
地球という大きなものを護るために、アラスカという小さなものが切り捨てられているという、真実。
それはまた、自分が今生きるこの場所が、
いつ“小さきもの”として生け贄にされるかわからないということでもある。
彼らは、何も知らされない生け贄の立場を拒んだ。
人間として、当然のことだとは思う。
でも軍に属するものだからこそ、それはとても難しいことだとわかる。
大義がなければ戦争はできない。
彼らだって、何も思わず連合に属していたわけではないはずだ。
それすらもすべてくつがえして、彼らは自分自身で判断するという。
オーブが、大西洋連邦の支配を拒み、まさに今、連合軍が攻め入ろうとしている、このときに。
連合につけば、プラントは敵。
プラントにつけば、連合は敵。
ナチュラルと、コーディネーター。
二分される世界。
ウズミ・ナラ・アスハは、それを良しとせず、あくまで中立を貫く決意だという。
「オーブが戦場になるんだ! こんなこと・・・・・っ」
人がまばらになった格納庫に、カガリの声が響いてきた。
声の方へ目をむけると、礼装したカガリがキラになだめられていた。
相変わらずかしこまらない様子で、見た目とのギャップにキラも苦笑いをしていた。
「カガリ。」
声をかけて近づくと、混乱した頭をますますかきむしって、カガリは私を見た。
「またお前か?! はなんでいつも、どこにでもいるんだよ・・・っ?」
「今は、自分の意志でここにいる。きっとザフトではMIAだよ。」
笑って言い返す私。
言ってから気がついた。
ヤバイ。カガリってお姫様なのに、こんな口利いてるよ。
けれど目の前のお姫様はそんなことを気にする余裕もなく、やはり落ちつかない様子だった。
そんなカガリに優しい目をむけて、キラが言う。
「でも・・・。正しいと思うよ? オーブのとった道。・・・一番大変だとも、思うけど。」
なおもキラは、にっこり笑ってカガリに告げた。
「僕も、護るから。お父さんたちが護ろうとしてる、オーブって国を。」
キラの言葉に、みるみるうちに目にいっぱいの涙を溜めたカガリは、そのままキラに飛びついた。
突然飛びつかれて、キラは慌てながらもカガリをなだめる。
「いやっ・・・だから、ね? 落ちついて?」
困ったように私を見ているキラに、クスリと笑みが漏れた。
泣きじゃくるカガリをなだめながらも、今度はキラが真顔で言った。
「。このまま地球軍が話し合いに応じなければ、戦闘になるよ。オーブを出るなら、早くしたほうがいい。」
「キラ・・・・・。」
「―――カーペンタリア基地は、すぐそばでしょ?」
ザフトに戻る。
軍の・・・・、パトリックおじさまの命令で、敵が決まるところ。
まだアカデミーにいた頃、私はイザークに言った。
『モビルスーツに乗って戦うことは、人を殺している事実を忘れてしまいそうで、こわい。』と――――。
そしてミリアリアを知って、あらためて気づいた。
殺してきた人にも、悲しむ誰かがいること。
私がラスティを失ったように、ニコルを失ったように、私が殺した人を失った、誰かがいる。
キラの言葉に何も返さないまま、私は黙ってその場を離れた。
「そういうわけで、この艦はもう地球軍でもないし、俺も連合の軍医じゃないわけだ。」
「はぁ・・・・。」
「君も俺の言いつけ守って安静にしてたし、もう大丈夫。」
同じ頃医務室では、他のクルーと同じように艦長の話を聞いてきた軍医が、ナスティに話をしていた。
「ただ、別の医者が診るなら治療方法の経過を知ることは大切だからね。ほい、カルテ。」
渡されたものを見ると、治療の内容が事細かに書き記され、自分がどういう状態から回復していったか、まで書かれている。
ナスティは、コーディネーターの患者であったのに。
「どういうつもりだよ、これ・・・・っ」
「別に? 俺は医者だし。君を診てたの、俺だし?」
なんでもない、というように首をすくめて言う。
「一言付け加えると、俺はこのままこの艦にいるから。感謝してるなら、君が沈めることだけはしないでほしいね。」
少し皮肉っぽさを出しながらも、彼は言った。
「はあ?! アンタ残んの?」
ナスティは予想しなかった言葉に驚いた。
てっきり軍医の自分が降りるから、今のうちにカルテを渡したのだと思ったのだ。
「俺はね、軍医なんてやってるけど、キズを負った兵士のケガ診るのなんてウンザリなのさ。」
うんざり、とか言いながら足つきを降りない意味が、ナスティにはわからなかった。
そんなナスティにはお構いなしで、軍医は話を続けた。
「専門は小児科でね。ただ風邪の子供を心配する親に、大丈夫だって言ってあげれる仕事に戻りたいんだよ。」
「・・・・・・・・。」
「この艦の連中なら、その世界を取り戻してくれると思うのさ。」
軍医の言葉に、ナスティは自分がいつの間にかカルテを握り締めていたことに気づかなかった。
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【あとがき】
足つきの軍医さん、モデルはいつもライナの子供がお世話になっている小児科の先生。
すごく子供視点で接してくれて、シンは大好きなお医者さん。
だって風邪ひくと、「センセイのところ行く〜!」とぐずるんですよ。
連れて行くのに困ったことはないです。注射も平気。
2歳の頃からすでに自分が注射されているのをじーっと見るんですよ。泣きもしないで。
ある意味つまらないです。(スイマセン、余談)