「俺さぁ、あの子に殺されかけたんだよ。」

案内してくれたミリアリアは、気を利かせたのかいなくなっていた。
鉄格子の外とうちに分かれて、それでも背中合わせになりながら、ディアッカが話し出した。
もちろん、今までの状況をすべて私が話した後で。










〔 過去と違う未来 PHASE:33 〕










「俺さぁ、今までロクに考えもしないで戦ってきたんだよ。でもあいつ・・・。ミリアリアの彼氏、MIAらしいんだよ。」
ディアッカの言葉を聞いて、いつかの思い詰めた顔のミリアリアを思い出す。
「話し聞く限り、あいつの彼氏殺したのは俺じゃねーんだけど、でも・・・同じだよな。」
以前よりもゆっくりと、穏やかにディアッカが言った。
「俺はもう、何人も俺と同じ人間と知らずに、殺してきたんだ。」

一人きりでずっとこの独房の中に入れられて、考えることばかりがディアッカの日常になっていたのだろう。
ディアッカの表情も、どこか角の取れた感じがした。
ミリアリアの存在が、考えるきっかけになったのもあるんだろうか・・・。

から、アラスカの話も聞いて、なんだかますますわかんねーな。・・だめだ!俺、今までみたいには戦えねーよ。」
「・・・・・・・・・。」

私も、戦えるのだろうか。
戦っても、戦っても、戦争は終らないと知りながら。

「ところでは知ってるか? その・・ミリアリアの彼氏。お前もあの場所に来たんだろ?」
“あの場所”は、さっき私が説明したイージスとストライクの相打ちの場所のことだった。
ミリアリアの彼氏、は、地球軍。
まさか・・・・。まさか・・・・・。

「ねぇ、乗っていた機体は・・・・。」
「ん? 戦闘機って言ってたな。・・青と白の。」


忘れたくても、目に焼きついてしまった光景。
炎上するモビルスーツ。
炎に焼かれる機体。

その一瞬前の出来事に、思い当たることがあった。
ストライクを援護するように飛来した、一機の戦闘機。
イージスにミサイルを撃ちこんで、次の瞬間には―――・・・。
イージスのシールドが戦闘機のコックピットを破壊して、爆発、炎上した。

あれに・・・・ミリアリアの・・・・?

?」
さっと顔色を変えた私に、ディアッカが声をかける。
ディアッカには告げられても、あの心優しいミリアリアに、どうして伝えられるだろうか。
あなたの彼氏を殺したのは、私の幼なじみだと。

私が知る事実を話すことで、MIAだった彼は死亡に変わる。
希望も何も残らない、ただ事実のみが彼女を襲う。

「そっか。やっぱ死んでんのか、トール。」
トール?
それがミリアリアの彼氏の名前?

アスランに、トールを討たれたミリアリア。
キラに、イザークを殺されなかった私。
タイミングが違えば、ミリアリアは私で、私はミリアリアだった。

軍に属すれば、戦う相手は軍が決める。
ザフトに属するアスランは、敵のトールを殺して。
もう地球軍ではないというキラは、敵ではないイザークを殺さなかった。

アスランがトールを殺して、戦争の何が変わったんだろう。
ただ、ひとりの少女を泣かせただけ。
やっぱりもう、こんなことは終わりにしたい。



足つきがオーブに停泊してから数日。
ザフトによるパナマ攻撃のニュースが飛びこんだ。
キラと一緒に医務室へ来て、情報をくれたミリアリアがポツリと言った。

「アラスカで・・・あんなに人が死んだばかりなのに・・・・。」

くり返すばかりの戦いの歴史。
戦争の中に、彼女の持つ人の心は生きていない。

だからくり返す。
だから終らない?

私もまた、言うことができないでいた。
トールという名の彼氏の死を、ミリアリアに。
ためらう心。
それもまた、戦争の中には存在しない、人の心。




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【あとがき】
 やっぱりイザークはひとりきり。
 そしてディアッカはまだ独房の中。ごめんディアッカ。
 だってちゃんとナスティは拘束禁止だから。
 キラの権限で。・・・この頃すでに大将だったのね、キラくん。