「何? 婚約って、なに?!」
薄紫色の、もともとが大きな瞳をさらに大きくして、キラが聞く。










〔 過去と違う未来 PHASE:32 〕










「キーラ。落ちついて。」
「どうして? なにそれ? アスランは? アスラン!」
私の腕をつかんで、キラがさらに問う。
私は苦笑いのままで、キラに言う。
「アスランにも婚約者がいるよ? ラクス・クラインっていう。」

キラは、最終的にそのラクスの介護を受けたと聞いていた。
そしてあのフリーダムも、ラクスから託されたのだと。
それが真実なら、今頃は彼女も追われる身だろうか・・・。

「それは・・・・聞いたけど・・・。でもアスランはが・・・・。」
急にしゅん、として口ごもるキラの顔をのぞきこむ。
「―――知ってる。イザークと婚約するとき、アスランに言われた。」
「えぇ?!」
「私のことを心配するのは相変わらずだけど、きっともう昔の感情はないよ。」
「・・・そう、なの?」
「たぶん。」

私の言葉に、キラがくすっと笑った。
正直、アスランが私をどう思ってるかなんて、考えている余裕はなかった。
でもきっとアカデミー時代で、それは終っていると感じていた。
それはフェイクだと言われると、どうにも自信はないけれど。
なんたって彼は、“ポーカーフェイスのアスラン君”だから。

私はもうひとつ、キラに言うことを思い出した。
「そうだ、キラ。イザークを殺さないでくれて、ありがとう。」

こんな言葉を、私がフリーダムのパイロットに言ったとバレたら、イザークは半端なく怒るだろう。
誰よりも自尊心の強いイザークは、敵に“生かされた”ことすら怒りそうだ。
でも。

 『――――あいつ・・・・・? なぜ・・・・・?』

フリーダムに蹴り飛ばされながら、最後につぶやいたイザークの言葉を、ダークフレームは拾っていた。
その言い方に、怒りよりも戸惑いを強めていたと、今は思える。

イザークも、考えるだろうか。
戦うべきものが、本当は何なのか。
それとも。
私が死んだと、ナチュラルに殺されたと、怒りのみで敵を討つのだろうか。

「アラスカにいたの?・・・・僕が助けた?」
頭の中にイザークを探すキラ。

でもね、キラ。アラスカだけじゃないの。
キラはもう、イザークをたくさん知ってる。

「イザークは、“デュエル”のパイロットなの。」
・・・・・・。」
信じられない、と、キラの口が動いた。



「いつまでもパイロットスーツじゃかわいそうだから。」
キラの部屋まで来てくれたその子は、食堂で会ったミリアリアという少女だった。
「サイズ、たぶん私と同じくらいだと思って。」

差し出された服は、イエローのワンピース。
スカートをはくのは本当に久しぶりで、抵抗がなかったと言えばウソになる。
けど、この少女の申し出をないがしろにはしたくなかった。
私に対して敵意も悪意もむけず、ただ思い詰めた顔をしていたのが気になっていた。

「どうもありがとう。」
軍服ですらズボンを着用している私。
やっぱりスカートは落ちつかなかったけど、息苦しさは消えた。

私が手に持ったパイロットスーツをじっと見て、ミリアリアが言った。
「・・・・あなた、えっと・・・・。」
でいいよ、ミリアリア。」
私が名前を呼んで返すと、ミリアリアは穏やかに笑った。
この前の思い詰めた顔からは、想像しなかった笑顔だった。

。バスターのパイロットを知ってる? ディアッカっていう・・・。」

――――え?

まったく予期せぬところで、思わぬ名前と出会った。
バスターのパイロットは言わずもがな、アカデミーで同期だったディアッカだ。
そのディアッカは、現在バスターと共に行方不明。
消息はまったくつかめず、MIAに認定されていた。
同時に行方不明になったアスランはすぐに発見されたのに、バスターの情報だけはどこからも上がってこなかった。
まさか、まさか、という思いは日に日に濃くなっていて、イザークもナスティもそれを話題にすることはなかった。

「あのね。彼、ここに捕虜としているんだけど、こんなことになっちゃったから・・・。」
さっき食事を運んで、それで名前を聞いたという。
そして私のパイロットスーツに、もしかして、と思い立ち、話してくれたのだと。


艦はオノゴロ島に入り、艦長さんやキラはアスハ代表の元へ行ってしまった。
私はミリアリアにお願いして、ディアッカの所へ連れて行ってもらうことにした。
拘禁室の扉を開くと同時に、懐かしい声がした。

「なあ、さっきの質問――――・・」
「ディアッカ!」

こちらに目もくれず、独房の中でひとり寝転がりながら声を出していたディアッカは、私の声に驚いて飛び上がった。
?!」
がしゃんっ、と音をたてて鉄格子をつかみ、もう一度名前を呼ぶ。
「ディア・・・・っ」

呼ぶはずが、声にならなかった。
大気圏に単体で降下してきたとき、熱にうなされてたディアッカが目を覚ました時も、私は傍にいた。
あのときも安心して嬉しかったけど、今のこの気持ちは、それとは比べものにならないほどで。

。何かわいいカッコしちゃってンの?」
鉄格子のむこうからディアッカの手が伸びてきて、私の頭に触れた。
平静を装って言葉を選んでいても、ディアッカも私と同じ気持ちだったと思う。




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【あとがき】
 ちゃんが着ているワンピースは、ミリィが本編で着ていたワンピースです。
 オレンジと記すか、イエローと記するか悩みましたが。