「お嬢ちゃんは正真正銘、ザフトの軍人なんだろ? キラとは知った仲みたいだけど?」
金髪の男性が、軽薄に言った。
〔 過去と違う未来 PHASE:30 〕
・・・・・おじょう・・・・ちゃんって・・・・。
私のことか?!
まるで五歳か六歳くらいの子供にむけられた言葉みたいだ。
私があっけにとられていると、キラが代わりに答えた。
「僕たち、幼なじみなんです。」
キラの言葉に、同じ年頃の少年兵たちが息をのんだ。
「キラ、イージスのパイロットとも幼なじみって・・・・。」
外ハネの茶色い髪の少女が、となりのメガネをかけた少年に囁くのが聞こえた。
少年兵たちから、軍人の雰囲気は伝わってこなかった。
もしかして彼らも、キラと同じヘリオポリスの学生だったんじゃないかと思った。
彼らはそれぞれ青とピンクの、年少者が着る軍服を着ていた。
それがキラと同じだから、そう見えたのかもしれないけれど。
「・・・・ナスティを助けてくれて、ありがとう。・・・・治療をしていただいて、ありがとうございました。」
あえて感情を隠すように、キラと、艦長席に座る女性に声をかけた。
「認識番号296672。軍本部、特殊部隊所属、・です。キラの幼なじみですが、私はザフトの軍人です。」
キラが怪訝そうな顔で私を見ていた。
私はあえてキラに目をむけず、足つきの艦長である女性にむかって話をした。
「このままで・・・・よろしいんですか?」
女性は、キラと同じように怪訝な顔をしながらも、言葉を発するときは笑顔をつくる。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。まだ、地球軍・・・・に、なるのかしらね?」
最後の言葉は、私に、ではなく、金髪の男性にむけられていた。
男性は愉快そうに顔をしかめる。
もしかして彼が、“エンデュミオンの鷹”?
「人道的支援をおこなっただけです。あなたが気にすることじゃないわ。」
さらっと言ってのけた彼女には、親しみすら感じた。
ブリッジを出ると、キラに誘われるまま食堂へむかった。
艦は、オーブを目指している。
原隊に復隊しても、足つきのクルーに待っているのは銃殺刑。
殺されに帰ろうとする人間は、いないだろう。
不要と判断されれば、殺してでも排除する。
それが軍人の由来する、軍というもの。
「何か食べる? ちょっと待ってて。」
食堂には整備士と思われる作業服のクルーも居て、ここでもザフトのパイロットスーツの私は注目のまとだった。
そのほとんどの目に、悪意を感じる。
当然だ。
私は敵のパイロットなんだから。
ついさっきまで、ここのクルーを殺そうとしていたんだから。
その中にひとつ、悪意のない視線を感じた。
顔をあげると、それはさっきブリッジにいた、外ハネの髪型をしたかわいらしい少女だった。
少女は不安げに私に近づく。
「ミリアリア・・・。」
トレイを二つ手にしたキラが、少女に気づいて名前を呼んだ。
名前を呼ばれて弾かれたようにキラを見た少女は、思い詰めた顔をして身をひるがえした。
あっという間に姿を消した彼女に、いったい何だったのかと思う。
キラを見れば、彼女と同じように思い詰めた顔をしていた。
「キラ?」
名前を呼ぶと、その顔に笑顔を戻した。
「と一緒にゴハン食べるの、久しぶりだね。」
「―――アスラン、泣いてたよ。」
トレイを返して落ちついたところで、私はキラに言った。
「私も・・・・・泣いた。」
「――――うん。」
あの日の映像がまた頭の中にやってきて、涙が浮かんだ。
懸命にそれをこらえながら、キラに言葉を続けた。
「キラはね、たくさん私の仲間を殺した。けど・・・・、キラが死んだと思ったら、本当に悲しかった。」
「―――うん。」
「私たちにとってキラは、地球軍でもストライクのパイロットでもなくて、やっぱり大切な幼なじみだった。」
私の言葉に、キラは心の底からにっこりと笑っていた。
こらえきれなくなって、私はキラに抱きついていた。
私の身体を受けとめてくれるキラの身体は温かくて、キラの命がそこにあることを告げていた。
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