「僕は、ザフトではありません。そしてもう、地球軍でもないです。」
私のとなりに立つキラは、まっすぐ前だけを見据えていた。
はかなく揺れる瞳をした幼なじみは、その瞳に力強い意思を宿らせていた。
〔 過去と違う未来 PHASE:29 〕
医務室の中にいても、なんだか落ちつかなかった。
だってここは足つきの艦内。
私はついさっきまで、この艦を沈めようとしていた敵なのだから。
「僕につき合って」と言ったキラは、私をとなりに置いたままで、足つきのクルーと話をした。
私たちのパイロットスーツを見て、ザフトにいたのかとクルーの一人がキラに言った。
私はそのとき初めて、キラが自分と同じ“赤”のパイロットスーツを着ていることに気づいた。
なんてお気楽なんだろう、私。
私の周りであのパイロットスーツは当たり前で、キラが何の違和感もなく身につけていたから、疑いもしなかった。
目の前で眠るナスティに目を移すと、スヤスヤと安定した寝息が聞こえてくる。
足つきの軍医は、「コーディネーターは一人しか診たことがないけど」と言いながらも、ナスティに処置を施してくれた。
サイクロプスのマイクロ波の影響は見受けられないと聞いて、安心した。
「よかった。ナスティ。」
そっと頬に手をあてると、温かく、ナスティの命を感じた。
ブリッジの扉が開くと、ギョッとした顔が一斉に私に向けられた。
「。彼女に付いてなくて平気?」
その中に一人、笑顔のキラがいる。
足つきに乗り込むことになったとき、キラが艦のクルーに宣言した。
自分の機体に、Nジャマーキャンセラーが搭載されていること。
データを取るなら、艦を離れること。
奪おうとするなら、敵対してでも守ること。
そして、私とナスティを拘束せず、ナスティには治療を与えてほしい。と。
キラに名前で呼ばれた足つきの艦長は、地球軍にしては若すぎる女性の指揮官だった。
彼女はキラと私を交互に見ると、「わかったわ」と言って他のクルーにも周知させた。
はっきり言ってこの判断には仰天した。
もし仮にラウだったなら、「却下する」と言ったと同時に敵兵を殺しているだろう。
ゆえに私は、こうして監視も付かずに自由に動けてしまっている。
私の方が心苦しいのは、さっきまでの自分の行為所以だろう。
「キラ。・・・・どうして、ナスティを助けてくれたの?」
今まで何度も、キラが戦ってきた敵。
“ザフト”の兵士が乗るモビルスーツを、どうして―――・・・・?
「そうしたかったからだよ。」
幼なじみにも、始まりありき―――。
泣いていた私に、差し伸べられた幼い手。
『どうして・・・・?』
不思議そうに返した言葉に、彼は答える。
『そうしたかったからだよ。』
幼い日のキラそのままに、さらりと答える。
こんなキラは知らないと、何度も感じた違和感が消えていく。
JOSH−Aの地下には、サイクロプスが仕掛けられていた。
基地から半径10キロは、すべて破壊され溶けてしまうというサイズのもの。
指令本部はもぬけのカラで、上層部の人間は誰一人残っていなかったという。
自軍の兵をも犠牲にして、ザフトの戦力を奪う。
これが、ザフトのオペレーションスピットブレイクに対して、連合が周到に用意した作戦だった。
スピットブレイクは、漏えいしていた。
それもだいぶ、前から。
私たち兵士には、直前で提示されたはずの攻撃目標。
自分たちが軍からいけにえにされた、足つきのクルーたち。
血を流し、涙を流す者たちには、伝えられない真実。
キラは言った。
自分は、地球軍としてでもなく、ザフトとしてでもなく、“それ”と戦うのだと。
私は―――。
戦争だけが、人を殺すのだと、わかってはいた。
だからJOSH−Aを押さえて、連合の軍本部を潰せば、戦争が終るのだと思っていた。
戦って・・・・・。
それで、終わりになる、と。
その結果が、どうだろう。
スピットブレイクの失敗で、ザフトは戦力の大半を失った。
そして連合もまた、いけにえという名の大きな犠牲を払った。
本来、英雄的扱いを受けていいはずの足つきは、今や敵前逃亡艦として、連合からすらも追われる立場だ。
終らないのだと、直感で悟った。
どれだけ戦っても、戦争は終らない。
“それ”は、敵であるものをすべて、滅ぼしたいのだから。
そして私は、“それ”に育てと、“それ”に遺伝子まで調整されたのだ。
「。泣かないで。」
キラに言われるまで、気がつかなかった。
自分の目から、涙がこぼれていたことに。
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【あとがき】
大義を持っていたはずのちゃん。
イザークに言われたように、自分は自分の力でプラントを護ろうとしていた。
その心を裏切られた悲しみの涙。
ちびキラ、ちびちゃんのエピは、セリフをダブらせたかっただけ。
といういい加減さデス・・・・。