「足つきィィィ、今日こそ終りだなあっ!」
「出すぎだイザーク! は右舷から回りこんで!」
「了解!」

アカデミーでのシュミレーションのように、私はナスティの指示に黙って従う。
フライトデッキが被弾し、足つきのハッチはすっかり無くなってしまっている。

それでもなお、足つきは戦っていた。










〔 過去と違う未来 PHASE:27 〕










見覚えのある地球軍の戦闘機が、たった一機で足つきを護っていた。
狙いをデュエルに定めて撃ってくる。

「なめるな! バスターとは違うんだよォっ!」
戦闘機をイザークに任せて、私はナスティとなおも足つきに迫る。

別方向から新たにジンが三機、戦闘に加わった。
ナスティはその三機とも通信をつないだ。
「敵戦艦のミサイルを引きつける! あなたがたは正面へ!」

単体飛行が可能なディンとダークフレームは、グゥルを使うモビルスーツよりもすばやく動ける。
ミサイルをかく乱するのは、ジンよりも私たちの方がむいていた。
私はナスティの言葉に、右舷後方に回りこみ、スラスターにライフルを撃ちこむ。
足つきは、黒煙を上げて、コントロールを失おうとしていた。


キラが、その身をかけて護り続けてきた艦を今、私は落とそうとしている。
心は、苦しいだけだった。

これで終る。
これで終らせるから。

だから許してね、キラ――――・・・。


足つきの正面艦橋窓に、一機のジンが吸い寄せられるように近づいた。
ビームライフルを構える動きが、やけにゆっくりと見えた。

終る。
足つきが落ちる。

――――刹那。
今にも発射されそうだったジンのライフルが、逆にはじけて火を噴いた。


「なに?!」
声をあげる間もなく、三機のジンが落とされた。
――――正確には、武装を解除された。
メインカメラ、ライフル、グゥルを切り離されたモビルスーツは、戦線離脱を余儀なくされる。
舞い降りたモビルスーツが成した行為は、まさにそれだった。

「くっそ! なんだよ、アレは?!」
イザークの言葉は、私たちの誰もが思っていることのすべてだった。

本当にアレはなんだろう。
白と青の二色で彩られたその機体は、翼を持っていた。
外見はデュエルと変わらぬ印象。
おそらくはXナンバーの流れを汲むものなのだろう。

足つきの正式名称は“アーク・エンジェル”
足つきを背にして戦う、翼を持ったモビルスーツは、まさに天使の使いなのだろうか。


一番に正気を取り戻したのはナスティだった。
「あと少しで・・終るんだよ! ジャマなんてさせるかっ! 、いくぞ!」
ディンのバーニアが加速をつけたとき、ノイズ交じりの声が、スピーカーから流れた。

「ザフト、連合、両軍に伝えます! アラスカ基地は間もなく“サイクロプス”を作動させ、自爆します!」

私の身体が、完全に止まった。
バーニアをふかそうと手をかけたレバーから、力なくその手は滑り落ちた。

「―――両軍とも、ただちに戦闘を停止し、撤退してください! 繰り返します――――」

思いもよらない、懐かしい声だった。
もう二度と、聞けないはずの、声だった。

「――――――キラ?」

空域にあるすべての者にむかって、全回線に流れたのは、まぎれもないキラの声。
炎のむこうに消えたはずの、キラの声だった。

キラは再度、戦闘空域に呼びかけた。
アラスカが、サイクロプスを作動させ、自爆すると。
それが事実なら、私が今いるこの場所も危ない。

けど、動けなかった。
キラの言葉より、キラの存在が衝撃的だったから。


「ヘタなおどしをォォォォっ!」
動いたのはイザークだった。
ビームライフルを撃ちながら、キラの機体へ間を詰める。

イザークの行動は当然だと思う。
連合の艦を護るモビルスーツは、ただ敵でしかない。

――――今、私以外のザフト兵には。

イザークは得意の接近戦に持ちこむと、ビームサーベルを引き抜いた。
けれど、イザークが単機で迫ったところで、勝てるはずがない。
だって、あれは・・・・。
あの未知のモビルスーツに乗っているのは、間違いなくキラなのだ。

クルーゼ隊が一丸となっても落とせず、アスランが相打ち覚悟で殺したはずの、ストライクのパイロット。
私たちの幼なじみの、キラ・ヤマトなんだから。




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【あとがき】
 そりゃないよ、ちゃん。
 と、思わずライナが突っ込みを入れたくなるほど、最後のセリフはそりゃないよ。ですね。
 えと、ナスティは種世界にはないニュータイプ、と思っています。
 ある意味でムウさんの家系はニュータイプだと思いますけど。
 そういえば最後にはキラくんもニュータイプ的な感性でしたよね。