「オペレーションスピットブレイク、発動されました。目標はアラスカ、“JOSH−A”です!」
うわずったオペレーターの声が、コックピットに届けられる。
攻撃目標はパナマだと、信じて疑わなかった私たち兵士に、衝撃が走った。
〔 過去と違う未来 PHASE:26 〕
「へぇ・・・。おもしろいじゃないか! さすがはザラ議長閣下だ。」
ナスティが、ディンのコックピットから顔をのぞかせた。
それを受けて、デュエルのコックピットから、イザークも顔を出した。
「やってくれる。まさに好機じゃないか。」
「頭をたたけば、終るもんね。戦争。」
そのために戦うんだ。
「これで終わりだな。ナチュラルも。」
捨て台詞と共に、コックピットへと姿を消したイザーク。
「終らせる。・・・・ラスティ、ニコル・・・・・。」
ナスティはつぶやくように二人の名前を呼んで、コックピットのハッチを閉めた。
戦争を終らせるために戦う。
なんだかそれは、こっけいに思えた。
『ナチュラルをすべて、滅ぼして、かね?』
バルトフェルド隊長の言葉が、脳裏によぎる。
でも、きっとこれが最後。
私たちの大切な人を殺した戦争が、今日終る・・・!
―――終らせる!
私は愛機になったアストレイダークフレームに乗りこんだ。
アスランは、転属になった。
国防委員会直属、特務隊へ。
それは、昇進を意味する通達だった。
スピットブレイク発動前に、彼はプラント本国へ旅立った。
別れの挨拶は、マッケンジー姉弟を思い出すような、オレンジの夕暮れ時。
まだ骨折した腕を固定したまま、軍服をはおるようにして出てきたアスランを、三人で見送った。
「最新鋭機、受領すんだって? お前ばっかズルくね?」
一番に声をかけたのはナスティ。
「俺もどっかから、かっぱらってくっかなー?」
アカデミーを出て軍に入隊しても、アスランとイザークとナスティは、ずっと一緒だった。
仲間を一人、また一人と失って、残された者の思いは格別だろう。
ナスティは気弱な自分を見せまいと、いつも以上に軽口をたたいていた。
「いろいろと、すまなかった。ナスティ。」
アスランは持っていたカバンを床に下ろし、ナスティに手を差し出した。
ナスティは差し出されたアスランの手を、力強く握り返した。
アスランが一瞬顔をしかめて、ナスティがニヤっと笑ったから、本当に力強く握ったんだと思う。
「は、スピットブレイクに参加するのか?」
アスランに聞かれて、私はうなずいた。
『キラ・ヤマトを暗殺せよ。』
その任務は、アスランがストライクを討ったことで、なくなった。
また、そんな任務をパトリックおじさまから受けていた、とは、言えるはずもなく。
「にも、辛い思いをさせて、すまなかった。」
謝るだけのアスランに、うしろにイザークがいることも忘れて飛びついた。
「もういいよ。もう、いいから・・・ッ」
キラを殺したのは、アスランじゃない。
私は、ニコルを殺したキラを、もう憎んでいない。
同じように、キラを殺したアスランを、憎んだりしない。
腕を組んで壁にもたれかかり、無関心を装っていたイザークが、アスランに歩み寄った。
スッと手を差し出したイザークに、何か裏があるのかと疑ってしまった。
アスランも、イザークの差し伸べた手を凝視した。
「俺もすぐそっちへ行ってやる。キサマなどが特務隊とはな・・・!」
手を差し伸べている割には、口から出てくる言葉はいつも通りで。
そんなイザークに、アスランはふっと笑った。
「今まで、・・・・ありがとう。イザーク。」
アスランは、イザークには礼を言った。
同じ隊にいながら、争うことしかできなかった二人が、今はお互いを認め合っている。
名残惜しさを誰もが感じて伏せ目がちになる中で、イザークが言った。
「今度は俺がお前を部下にしてやる!」
高いところから物を言うイザークは、アカデミー時代から何も変わっていないように思える。
けど、私も、ナスティも、アスランも、もう知ってる。
そんな言い方しかできない、不器用な人間が、イザークなんだと。
「―――それまで、死ぬんじゃないぞ!」
続けられた言葉に、ナスティと顔を合わせて、やっぱりねと笑った。
本当にイザークってば、素直じゃない。
「・・・・・・・・わかった。」
去っていくアスランのうしろ姿を、私たちはいつまでも見ていた。
そして今、目の前には、白亜の艦が―――・・・!
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【あとがき】
大好きです。アスランとイザークのこのシーン。
特にイザークが!(笑)
彼の優しさが凝縮されていてお買い得だと思いますっ!