カーペンタリア本部の医務室に、アスランはいた。
アスランがストライクを討ったと、イザークから聞いた。
それが理由でネビュラ勲章を授与されることを、ラウから聞いた。
私はまだボーっとしている頭で、医務室のドアの前に立っていた。
〔 過去と違う未来 PHASE:25 〕
絞りだすようにうめく、アスランの声が漏れ聞こえた。
だから私はノックもしないで、部屋のドアを開けた。
「アスラン! どうしたの?! どこか痛い?!」
聞いたことがないほどの苦しみの声を吐いて、シーツを握りしめているアスラン。
その様子から、折れたと聞いていた腕が、痛みだしたのかと思った。
「・・・? ・・・ッ。俺は・・・っ。キラ・・ッ・・・キラを・・・・ッ!」
アスランはまるで、今初めて現実に直面したかのように声を震わせていた。
「・・・知ってる。アスラン。」
落ちついて答えを返すつもりでも、涙だけは止められなかった。
「ころ・・・した・・・。殺した・・・・ッ」
映像は、脳裏に焼きついたまま、消えない。
ストライクに組みついたイージス。
イージスのフェイズシフトが落ちる。
閃光。
爆炎。
キラはひとり、炎の中に――――・・・・。
―――キラだけじゃない。
ラスティは、どうして死んだんだろう。
ニコルは、何に殺されたんだろう。
キラは、どうして炎に焼かれたんだろう。
事実、
ラスティはナチュラルに殺されて。
ニコルはキラのストライクに殺されて。
キラは親友のアスランに殺された。
みんな殺したい相手だったから、殺したの?
―――ちがう。
殺したのは戦争。
人と人が争った結果でしかない。
戦争の中に、人の想いは生きていない。
討つのは敵。
殺すのは、敵。
――――――みんなが死んだのは、戦争のせいだ。
じゃなければ、アスランが泣くはずない。
殺してしまったキラを想って、涙を流すはずがない。
「どうして・・・だ。どうして俺の行為が賞賛される?! 勲章って・・・・キラを殺してか?!」
ニコルを殺されて、憎しみのみで戦った結果が、親友の死。
きっと私も、オーブで言葉を聞いていなければ、アスランと同じことをしていた。
迷うことなく、キラを暗殺していた。
こうして苦しんでいたのは、私だったかもしれない。
「アスランは、敵を討っただけだよ。」
「?!・・・・やめてくれ! もうたくさんだ・・・・。」
アスランは葛藤していた。
自分が悔いているその行為が、賞賛されている事実に。
「だけは・・・、俺を責めて、なじってくれるかと・・・・ッ」
お前は親友を殺した。
キラを返せと、私に言われればまだ、救われたのだろう。
「殺したくて殺したわけじゃないでしょ? 殺したのは、キラだけじゃないでしょ?」
「・・・・・。」
私も同じ、キラを殺した。
もう何人も、キラを殺した。
「敵という名のキラを、私だって殺してきたんだよ。アスラン。」
だからもう、ひとりで泣かないで。
自分だけが辛いなんて、思わないで。
私、わかってきた気がするから。
昔、バルトフェルド隊長に言われた『命令は正論じゃない』ってこと。
戦争の中に、忘れられてる人の心。
それがどんなに大切で、温かいものかを、戦争は知らない。
「キラは・・・・何に殺されたんだと思う? ニコルは? ラスティは?」
見つけて、アスラン。
自分でその答えを。
できるよ、アスラン。
あなたは強いから。
「アスランもキラも、私には大切な幼なじみだよ。」
そうして私たちは、声をあげて泣いた。
敵、ではなく。
大切な幼なじみのキラを、失ってしまった、と・・・。
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