今はただ、鉄くずになったソレに手で触れた。
―――まだ、熱い。










〔 過去と違う未来 PHASE:22 〕










爆散したその機体は、原形をとどめていない。
機体のそばに、シュベルトゲベールが地面に突き刺さっていた。

「収容できる部品は、すべてモルゲンレーテへ運んでちょうだい。」
エリカさんがアストレイ部隊に指示を出す。
本当なら私も、その部隊の一員だった。
けど、これを前にして平静を装えるほど、私は大人じゃなかった。
作業をほったらかしにして、アストレイからも降りてしまった私を、エリカさんは見て見ぬフリをしていた。


「あ・・・・・あぁ・・・・・。」
コックピットは、跡形もなくなっていた。
機体の状況から、あのシュベルトゲベールでコックピットを切り裂かれたのだろうと思った。
あらがうこともできずに、パイロットは―――・・・・。


。少しは自覚してください。』
『妬いてるんですか? イザーク。』
『今まで、ありがとうございました。』


――――――ニコル――――――!


年下の柔らかな面立ちをした彼が、バラバラになって消えた。
目の前で、まだくすぶっているブリッツの残骸。

キラが―――ニコルを殺した―――!

黒い冷たい感情に、自分がとらわれていく。
『キラ・ヤマトを暗殺せよ。』
パトリックおじさまの指令が、頭の中を支配する。
憎しみに心がとらわれる。
キラは、ニコルを殺した。



ふらふらとブリッツのコックピットへむかった私に、エリカさんが駆けよった。
「機体の回収は終ったわ、。」
視点の定まらない目で、私はエリカさんを見る。
何も言葉を発せずに、やっぱり私はコックピットへ足を運んだ。

「やめなさい!」
鉄の焼け焦げるにおいに混じって、かすかに人の焦げるにおいがする。
顔を背けたくなる状況の中、私はそこであるものを見つけた。
爆発の高熱で、真っ黒に焼け焦げたソレは・・・・。

「・・・・・・・・ニコル・・・・・・・・?」
ただ右腕だけが、かろうじて判断できる遺体だった。

「ニコル・・・・・ニコル・・・・。ニコルうぅ・・・・・・っ。」
この手は昔、優しい音色のピアノを奏でた。
戦争を終らせて、ピアニストになりたいと言っていたニコル。
一番年下のクセに、一番のしっかり者で。
誰からも好かれていたニコル。

エリカさんの手が、私の肩に置かれた。
「帰るわよ、。・・・いいわね?」
私は無言でうなずいて、その手を抱えたままアストレイに乗りこんだ。



オーブへ戻ってから、エリカさんの計らいで誰にも気づかれないように、ニコルの腕をだびに付せた。
でもこれで、エリカさんにはばれてしまった。
私が、ザフトの軍人だと。
けれどエリカさんの態度は、実にあっさりしたものだった。


「報告するつもりはないわ、がザフトの軍人だなんて。」
エリカさんの仕事部屋は、相変わらずたくさんのパソコンが所狭しと並んでいた。
コーディネーターであることを隠している彼女のこの部屋に入れるのは、内部でもごくわずかな者だけ。

「貴女には感謝してる。アストレイをつくることが、私の仕事ですからね。」
「エリカさん。・・・私、今日でオーブを出ます。本当にいろいろありがとうございました。」
「そう。・・・聞いてもいいかしら? 貴女、どこへ行く気?」
一呼吸置いてから、それでも私ははっきりと答えた。

「足つき。・・アークエンジェルへ。」
私の答えに、エリカさんは「やっぱりね」と言った。
「エリカさんと会って、・・・キラと会って。私も私なりに考えました。
 でも、ニコルが殺されて、やっぱり私は自分の中にある遺伝子にあらがえないんです。」
私の言葉にエリカさんは不思議そうな顔をして、でも聞き返すことはなく聞いていた。

「私はキラを、殺すかもしれません。今のままでは、きっとキラを殺します。」
ニコルの死を目の前にして、湧き出てきた黒い感情。
それはきっと、キラを殺す。
「・・・・・でも、その前に話をしたいと思います。憎しみだけで人を殺してはいけないと、この国で学びましたから・・・・。」

私の中の遺伝子が、それを許すかはわからない。
けど、パトリックおじさまの声のあとに、必ず聞こえてくる声がある。


 『 お前が誰かの夫を殺せば、その妻はお前を恨むだろう。
   お前が誰かの息子を殺せば、その母はお前を憎むだろう。
   そしてお前が誰かに殺されれば、私はそいつを憎むだろう。 』


それはオーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハ様の言葉。
この国に来なければ、気づかないでいた真実。




   back / next


【あとがき】
 ブリッツを回収したのがオーブだと聞いて、ならその場所には是非ちゃんを行かせよう、と。
 ちょいグロですか?ごめんなさい。
 でも書きたかったエピです。