足つきがまだオーブにとどまっている確証を得て、アスランたちは帰っていった。
どんな風に言いくるめるのかは知らないけど、アスランのことだ。
絶対に網を張って、足つきの出航を待つ。
今、彼らはザラ隊。
アスランの指揮の元で、動くのだから。
〔 過去と違う未来 PHASE:21 〕
もう、戦わないでほしい。
キラの乗る足つきを、執拗に追い続けるアスランたち。
私はこれ以上、キラとアスランに敵対してほしくなかった。
―――他人事のように、思っていた。
私も、ザフトの軍人なのに。
私も、キラの敵だったのに。
シーゲル様のあとを受けて、プラントではパトリックおじさまが議長に就任した。
いまだオーブにとどまっている足つきに目をやりながら、私もいまだにオーブにいた。
真夜中に、私の通信機が鳴った。
それは、パトリックおじさまからの直接命令だった。
私と、お父さまにしかわからない暗号電文は、私の考えもしないことを伝えてきた。
『 キラ・ヤマトを、暗殺せよ。 』
これが、私の役目。
キラを暗殺する。
私が、キラを殺す。
敵だから―――敵だから?
『。命令は必ずしも正論じゃないんだよ。』
キラに討たれたかつての上官が言った言葉を思い出す。
でも、私に何ができるんだろうか。
遺伝子を裏切れるのだろうか。
どうすればいいのか、私には何も見えないでいた。
くしくもその日、足つきの出航が決まった。
「お前はこれを。私はこれで・・・。」
突然カガリに部屋につれられて、私はカガリの身支度を手伝わされた。
・・・・お姫さま?
どうやら足つきと共に行く気らしい。
だから私がお手伝いなのね?
「あのねぇ、カガリが行ってどうするのよ。」
「うるさいな! だって同じようなもんじゃないか。」
言い返されてうんざりしながら言葉を返す。
「・・・同じじゃないよ、私は。」
さらに言い返した私をふてぶてしくニラみつけてくる。
けれど次にカガリが言ったのは、予想外に感謝の言葉だった。
「・・・アストレイをあそこまでつくれたのは、キラとのおかげだからな。それには感謝する。」
カガリは本当に国を護りたいのだろうと思う。
それがただちょっと、好戦的なだけで。
と、ノックもなしにドアが開いて、ウズミ様が入ってきた。
敬礼して隅に避ける。
ウズミ様は私にチラッと目をむけて、すぐにカガリに向き直る。
「一緒に行くつもりか、カガリ。」
「はい。自分だけのうのうとこの国にいるわけにはいきません。」
「―――お前が戦えば戦争は終るのか?」
ウズミ様の言葉は、私にまで問われている言葉に思えた。
カガリはいつものように自分の正論をまくしたてた。
けれど。
「お前が誰かの夫を殺せば、その妻はお前を恨むだろう。
お前が誰かの息子を殺せば、その母はお前を憎むだろう。
そして、お前が誰かに殺されれば、私はそいつを憎むだろう。こんな簡単な連鎖がなぜわからん!」
ウズミ様に一括されて、カガリの言葉がとまった。
「戦争の根を学べ、カガリ。」
ウズミ様が出ていって、部屋には私とカガリが残される。
ナチュラルの医師に、母を殺されたナスティとラスティ。
ナチュラルの核攻撃に、母を失った私とアスラン。
そんな私たちが戦場で殺したナチュラルにも、同じように家族があって・・・・。
それはコーディネーターに家族を殺されたナチュラルを生む。
簡単な連鎖。
憎しみの連鎖。
「お父さまの言うことはわかるさ。だが、どうすればいい?」
「カガリ。」
「私たちを敵だと、銃をむけてくる者を、どうしたら・・・。」
カガリの言葉に、私は返す答えがみつからない。
私も同じだから。
憎しみの連鎖を断ち切れずに、ここにいる一人だから。
結局カガリは足つきと共にオーブを出ることを諦めた。
ウズミ様の言葉は、さすがに娘の心をとらえたらしい。
そして私にもまた、心の中に闇が落ちた。
自分の立つこの場所が、本当に正しいものなのかわからずにいた。
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【あとがき】
ウズミ様の言葉が、すべてだと思った。
ライナの日常でも、あの言葉は大切だと思ってる。